企業家が輩出し、また一方で元企業家が集まる会社でもあるグーグル。そこにはグーグルらしいとも言える、独特の価値観があるようだ。
東京・五反田。年季の入ったエレベーターで階上に昇ると、「freee(フリー)」の真新しいオフィスが広がる。事業拡大で、この6月に移転したばかりだ。佐々木大輔さん(33)は、グーグルで働いた後、この会社を2012年7月に起業した。
「自分たちのサービスで、世の中を変えたい」
1年前、クラウド型会計ソフトのfreeeを公開した。中身が革新的だ。ソフトを使うのに経理、簿記の専門知識はいらない。アカウントを作成後、ネットバンクやクレジットカードのサイトを登録すれば、ほぼ自動で確定申告や法人の決算などの処理ができる。今後は給与計算にまで対応するという。「中小企業を経理地獄から救った」とも評され、いまや登録事業所数は、7万を超える。
起業の「種」は、グーグル勤務時に生まれた。広告マーケティングのアジア担当としてリサーチしていたとき、「日本の中小企業は、クラウドサービスの利用率が他の先進国に比べて低い」という統計データを発見する。アメリカ54%に対して、日本では17%。みんなもっと、テクノロジーの活用に積極的になっていい。たとえば、煩雑で、時には高額な費用を支払う会計分野なら、IT技術で合理化できる余地が数多くある。新たなサービスで、その手助けをし、クラウドサービスの啓発にもつなげられないか。
会社を辞め、仲間と自宅マンションのリビングでfreeeの開発を始めた。「もし失敗したら」と考えても、グーグルで見た光景を思い起こすと、少しも不安にならなかった。
「入社後3カ月は、(米カリフォルニア州の本社)マウンテンビューで働きました。元起業家がごろごろしている環境だった」
ベンチャーキャピタルから数十億円の出資金を集めたうえで、会社をつぶしたと話す豪傑を見たことがある。その人物の周囲に広がる光景が衝撃だった。
「人垣ができていた。挑戦したことを評価する文化だから、みんなが話を聞きたがる」
失敗がなんだ。むしろクールじゃないか。そんな価値観をグーグルで学んだ。
※AERA 2014年7月7日号より抜粋