
チーフエンジニア/創業者
ジェームズ・ダイソンさん(66)
マイクの前に立つブリティッシュ・ロックの歌手ではなく、自社のコードレス掃除機を手にするダイソン氏。「アイデアが浮かんだら実験し、失敗を繰り返すことが大事です」。右は羽根なし扇風機(撮影/今村拓馬)

紙パック不要の掃除機や羽根なし扇風機など、斬新なデザインで知られる英国の家電メーカー、ダイソン。今月9日に都内であったハンドドライヤー(手を洗った後に使う乾燥機)の発表会で、創業者ジェームズ・ダイソン氏(66)は壇上に立ち、こう語った。
「フラストレーションの解消こそ、私が会社をつくった目的なのです」
製品開発について話すとき、ダイソン氏の口からよく出てくる言葉がある。
「フラストレーション」「いら立ち」「困惑」
均質化し、メーカーによる差異が小さくなった家電製品を革新的に生まれ変わらせるアイデアは、これらの中に見つかるという。
今回発売されたハンドドライヤー3機種の売りは、時速690キロという空気の勢い。独自に開発したモーターが生み出す強い風が、手に付いた水滴を吹き飛ばす。うち1機種は、蛇口と乾燥機が一体になっている。蛇口から左右に突き出た長さ約13センチのパイプの下に手を突き出すと、下向きの風が噴出する仕組みだ。
「ハンドドライヤーには、少年のころからイライラさせられてきました。手を当てても、ちっとも効果がみられない。結局は、ズボンで手をふくことになるのです」
ハンドドライヤーに関しては、洗面台から移動するまでに床がびしょびしょになることも、問題だと感じていた。
「ぬれた手のまま、ドライヤーを使う人の列に並ばなくてはならないこともある。私たちの顧客からもそうした不満を聞いていた。それで、蛇口と一体のドライヤーを開発したのです」
ダイソンのブランドを日本で有名にしたのは、サイクロン式掃除機だろう。掃除機には当たり前だった、ごみをためておく紙パックをなくした。それにより、吸引力の低下を小さくした。この発明も、いら立ちが起点だ。
※AERA 2014年4月28日号より抜粋