いまどきの学生寮は生活の場というだけでなく、イベントが催されたり、就活にも有利なこともあるらしい。著名人も入寮していたという都内の男子寮、和敬塾を訪ねた。
東京都文京区目白台の好立地で早稲田大学、学習院大学などに近い。7千坪の緑豊かな敷地に六つの寮舎、旧細川侯爵邸の本館、グラウンド、武道場などがある。作家の村上春樹氏も一時在寮し、『ノルウェイの森』にも和敬塾を想起させる寮が登場する。
1955年に前川製作所創業者、前川喜作氏が共同生活を通じた人材育成のために創立した。今でもその遺志を継ぎ、教養を身につけるイベントが多彩だ。教養講座には居合道や柔道、中国古典輪読会、坐禅、絵画研究会など。各界の有識者を招いて、定期的に講演会も開かれる。過去の講演者は、湯川秀樹、金田一京助、白川英樹、小野田寛郎、立花隆、植村直己などそうそうたる顔ぶれ。入塾生には兵庫県の灘、奈良県の東大寺学園、鹿児島県のラ・サールなど名門私立高校や、県立トップ高の生徒も。東京大学、東京工業大学、早稲田大学、慶応義塾大学など難関大をはじめ50大学以上の学生が集う。大勢の卒塾生が社会で活躍している。
卒塾生で組織する塾友会は会員数5千人におよび、会のホームページが就活の窓口にもなる。20社ほどの企業が、毎年、寮で会社説明会を開催する。名簿を手繰ってOB訪問をする学生も多い。昨年は東寮内に就活部が設立された。2代目部長は早稲田大学商学部3年の宮本大輝さん。和敬塾をこよなく愛し、自ら立候補して東寮の委員長も務めた。OBに依頼し、労働とは何か、から始まり自己分析や業界研究のやり方など、就活のノウハウを講義してもらっている。
「寮の生活は自分にとって大きな糧。責任のある役は大変だけれども、塾生の人生を背負うつもりでやっている」
※AERA 2014年3月31日号より抜粋