「消しゴムはんこ作りは書道と同じで一発勝負。でも力むとうまくいかない。失敗したら消しゴムにすればいいんです」と津久井さん(撮影/村上宗一郎)
「消しゴムはんこ作りは書道と同じで一発勝負。でも力むとうまくいかない。失敗したら消しゴムにすればいいんです」と津久井さん(撮影/村上宗一郎)
誰にでもいつからでも低予算で始められる。「消しゴムが材料でも、芸術性が加わるだけでアートになります」(ヒノデワシ社長の菅谷英子さん) (撮影/村上宗一郎)
誰にでもいつからでも低予算で始められる。「消しゴムが材料でも、芸術性が加わるだけでアートになります」(ヒノデワシ社長の菅谷英子さん) (撮影/村上宗一郎)

 消しゴムを彫るはんこ作りの愛好者が増えている。彫りカスの向こうに、新しいコミュニケーションが生まれる。

 東京スカイツリーが近くに見える展示場で昨秋、「消しゴムはんこ」の愛好者たちが集まるイベントがあった。年1回開催で7回目だが、来場者数は、一昨年よりも大幅に増えて6千人超と過去最多。親子での参加者の姿も目立った。小学4年生の娘と一緒に参加した母親は、一心不乱に消しゴムを彫り続ける娘の後ろ姿を見ながら、

「普段は集中力のない子。だから本当に楽しいんだと思います」

 消しゴムはんことは、専用の消しゴムをカッターや彫刻刀で彫って作るスタンプ。好きなイラストやデザインで自由に彫れば、世界で一つのオリジナル作品になる。この日の会場には、50人ほどの消しゴムはんこのクリエーターがブースを設けた。その中に、「消しゴムはんこ職人」として全国でワークショップを開催している津久井智子さん(33)の姿もあった。

 消しゴムはんこの魅力は、「料理と一緒で、小さい達成感の繰り返し。でも消しゴムはんこは繰り返し使え、押したものを人に見せたり、名前を入れて人にプレゼントしたりと、コミュニケーションが生まれます」と津久井さん。

 実際、消しゴムはんこの愛好者は確実に増えている。消しゴムはんこ専用の消しゴム「はんけしくん」を製造するヒノデワシ(東京都墨田区)が2008年から始めた講座を修了し、インストラクターとして活動する人は300人を超えた。消しゴムを使ったアートの普及を図る民間団体「JESCA日本イレイサースタンプ振興会」も12年4月、消しゴムはんこの技能認定制度をスタート。これまで全国で200人以上がアドバイザーに認定された。

 消しゴムはんこは、さまざまな場で人と人をつなぎ始めている。新潟県小千谷市にある極楽寺の僧侶、麻田弘潤さん(37)は、趣味だった消しゴムはんこ作りの技術を生かし、「諸行無常ズ」というユニットを津久井さんと結成。全国で消しゴムはんこ作りと法話を組み合わせたワークショップを開いている。

 麻田さんは12年1月、ボランティアで東日本大震災の被災地を訪れたとき、被災者のオーダーメードで消しゴムはんこをその場で彫ってプレゼントした。そのとき、被災者たちが普段は話さないような被災経験を話してくれたという。

「初対面で本音を聞くのはとても難しいが、消しゴムはんこを作りながらだと、お互い肩に力の入らない話ができる」

 そう感じた麻田さんは、はんこ作りをしながら仏教を知ってもらい、自分自身と向き合えるきっかけになるような集いができないかと考えた。

AERA  2014年2月10日号より抜粋