北朝鮮メディアが称賛する稀代の指導者、金正恩(キムジョンウン)氏。しかし実像は、裏の権力機関に操られた「かかし」の指導者ではないのか。

 北朝鮮ではニュースも小説も正恩氏賛美一色。北朝鮮メディアの政治宣伝手法を長年研究してきた大場和幸氏は指摘する。

「首領はいわば北朝鮮を体現する『国体』。存在自体が体制維持の象徴だ。いかに国民の頭に『3代目教祖様』の偉大さを刻み込むか。指導部がいま最も重視するのはそれだろう」

 経験不足の正恩氏を直接補佐するのが、「党の中の党」と呼ばれる朝鮮労働党組織指導部だ。部長は正恩氏が兼務、その下に第1副部長が6人いて、正恩氏を支えつつ、互いに足の引っ張り合いをしながら牽制し合っているという。

 組織指導部は人事から思想教育、監視統制に至るまで党全体に大きな影響力を持ち、下部組織が毛細血管のように国全体に張り巡らされている。何より、他の部署から正恩氏の手元に文書が届いたり、正恩氏の命令が該当部署に下達されるとき、必ず組織指導部の「検閲」を通るのだ(注・軍の問題は国防委員会を経て正恩氏に届く)。日本なら首相をそばで支える内閣官房のようなもの。「首領の名による党の指導」を徹底させるべく目を光らせる。

次のページ