女性が追いかけるのは韓流スターやジャニーズ系アイドルだけではない。モーターバイク競技「MotoGP」のスター選手の追っかけ女性たちが熱い。
先月10日、専業主婦のミユキさん(47)は夕食の片付けをさっさと済ませると、万全な態勢でテレビの前に陣取った。二輪ロードレースの最高峰「MotoGP」の今季最終戦バレンシアGPを観戦するためだ。
お目当ては、レプソル・ホンダ・チームに所属するマルク・マルケス選手(20)。昨年Moto2クラスで活躍し、今年はルーキーとしてGP初参戦。この日3位に入り、見事、史上最年少記録で総合優勝を果たした。
ミユキさんがモータースポーツファンになったのは2年前。幼少期から高校まで仙台市で過ごした彼女は、東日本大震災後ふさぎ込むようになった。通った幼稚園はなくなり、亡くなった同級生もいた。
そんな彼女に、バイク好きの弟がMotoGPを教えてくれた。レースを見ると、ヤマハ・ファクトリー・レーシング選手のバイクに「がんばろう日本」というステッカーが貼ってあった。ハッとした。
「レースがまたスゴかった。小柄な選手たちが、ものすごいスピードで走っている。その力強さに圧倒され、生きている実感を与えられました」
マルケスはいつ見てもニコニコしながらインタビューに答えていた。愛らしさと強さにハマった。ホンダ関連会社が主催するMotoGPの海外観戦ツアーに参加するようになった。手作りの応援旗を持参。来日時はどこへでも追いかける。今年はドイツとイタリア・ミザノへ行った。もともとバイク好きゆえホンダCBR250Rも購入。
「この2年でウン百万円かけましたが、今は長生きを願うほどに気分が明るくなった。恋心にも似た気持ちでマルケスを応援しているのでお肌もツルツル。元は十分取っています」
大型二輪免許も持つほどのバイク好きの団体職員ミキさん(49)は、二輪界のスーパースター、バレンティーノ・ロッシのライディングの美しさに一目惚れして9年。夫とともに海外観戦を年に数回楽しむ。
日本での人気はまだまだだが、追っかけ主婦たちの思いは熱い。ミユキさんは話す。
「これほどバカ騒ぎしながらマルケスを応援できるのは息子を見るような目で見てるから。恋する20代ではできない、主婦の強みです」(文中カタカナ名は仮名)
※AERA 2013年12月23日号より抜粋