中国が先月23日、東シナ海上空に「防空識別圏」(ADIZ)設定を発表した際、米国のケリー国務長官は同日ただちに非難声明を出し、ヘーゲル国防長官も中国に懸念を伝えたと述べた。日本外務省は同日、在京中国大使館に電話で抗議、バイデン副大統領の12月2、3日の訪日の際、中国に対しADIZの撤回を求める日米共同声明を出そうと声明案も用意した。
日本政府は26日、全日空、日本航空に対し中国ADIZ内での飛行計画を中国に提出しないよう要請し、両社はこれに応じた。ところが米国務省は29日、「航空会社は一般的には外国政府の航空情報に従うことを期待する」として、中国に飛行計画を出すよう要請した。民間航空は安全第一で、外国の航空情報には当否を問わず、一応従うのが原則だ。また中国へ向かう便が飛行計画を出すのは当然だ。
安倍首相は12月1日、「米国政府が民間航空会社に飛行計画を提出するよう要請したことはないことを外交ルートを通じて確認しています」と述べた。これは外務省が米国情報を全く取れていないか、あるいは面目を保つため、政府首脳に対しても情報操作をすることを示す重大な問題だ。
日本の期待に反し、バイデン副大統領は、3日の安倍首相との会談でも「力による現状変更は黙認しない」と言うだけで、ADIZ撤回を求める共同声明も出されなかった。日本は自ら2階に上がってハシゴを外された形だ。4日の習近平(シーチンピン)主席との5時間の会談でバイデン氏は「米国はADIZを認めない」との立場を示したが、主題は「米中協力関係の進展」だった。
4日に記者会見したヘーゲル国防長官は、「ADIZ設定自体は特別なことではない。突然決めたから緊張を招いた」と言い、同席した統合参謀本部議長のデンプシー陸軍大将は「ADIZを通過する全航空機に事前通報を求めている点が問題」と述べた。日米はじめ多くの国が防空識別圏を設定しているし、それは領有権と関係はなく、隣国の上空に線を引いてレーダーで見張る「目安」とすることもあるから、デンプシー大将の指摘した点だけが他国との主な違いだ。
中国もこの点は「まずい」と気付いた様子で外交部や軍の報道官は「民間機は対象としない」とか「技術的な問題は他国と協議したい」などと、面子を保ちつつ、事実上布告文を訂正する姿勢を示している。結局は他国と横並びの穏当な運用、でこの問題は片付きそうだ。
米国が穏和なのは「財政再建、輸出倍増」を国家目標とし、中国からの投資、融資の確保と、中産階級が爆発的に増大する中国への輸出拡大を目指すからだ。
オバマ大統領は中国に対し「封じ込め(コンティンメント)ではなく抱き込み(エンゲージメント)を目指す」とし、習近平主席はそれに応じて「不衝突、不対抗の新型大国関係」を唱えている。双方の国益上それが望ましいのは明らかだ。
※AERA 2013年12月23日号より抜粋