世界一の原子力大国で原発に逆風が吹き荒れている。1999年から一昨年まで稼働中の原発の閉鎖はなかったが、この1年で4カ所5基の閉鎖が決まった。

「苦渋の決断だが、いまの状況下ではやむを得ない」。今年8月下旬、米バーモント州にあるバーモントヤンキー原発の閉鎖決定に当たって、同原発を運営する電力大手エンタジー社のレオ・ドノー最高経営責任者はこんなコメントを発表した。

 同原発は1972年の運転開始で、2011年に米原子力規制委員会(NRC)から20年間の運転延長が認められたばかり。閉鎖の理由として会社は収益の厳しい見通しを挙げる。

 今年5月に運転を停止したウィスコンシン州キウォーニー原発も、11年に20年間の運転延長が認められたばかりだった。閉鎖の理由について、同原発を運営する電力会社は「純粋に経済性に基づく判断」とする。

 原発はこれまで、建設まで多大なコストがかかるが、運転を始めれば、その後の経費は他のエネルギー源に比べて安いと言われてきた。その構図が成り立たなくなっているのだ。

 最大の要因はシェールガスの普及により火力発電の燃料となる天然ガスの価格が下がっていることだ。天然ガスの価格は、08年ごろに比べて3分の1程度。原発なら認可から建設まで5~10年はかかるが、天然ガス発電所なら数年で済む。石炭に比べて温室効果ガスの排出が少ない点も天然ガスへの追い風となっている。

 一方、老朽化した原発は維持管理に経費がかかるうえ、福島第一原発事故以降、追加の安全対策も求められる。地域によっては風力発電と比べてもコスト面での優位性を失いつつある。

 バーモントヤンキー原発が来年、運転を停止すれば、米国で稼働する原発は99基となり、大台を割る。元NRC委員でエネルギー分野のコンサルタント業、ピーター・ブラッドフォード氏は「さらにあと何基かは早期の閉鎖を迫られる原発が出てくるだろう」と予測する。

AERA 2013年11月18日号より抜粋