東京・日比谷の高さ200メートル級のビル建設計画が思わぬ波紋を呼んでいる。霞が関にある国のヘリポートが使えなくなるかもしれない。
今年7月、国と民間業者、双方の担当者が相前後して驚きの声を上げた。最初は中央合同庁舎第2号館の屋上にあるヘリポート設置者の総務省だった。新聞記事を見て初めて、200メートルの高層ビルの建設計画を知った。
「寝耳に水でした。ヘリポートの維持は至上命題です」
ビルを計画している三井不動産に慌てて確認を入れた。というのは、もし、計画通りにビルが完成すれば、ヘリポートが使えなくなる恐れがあるからだ。問い合わせを受けた三井不動産も想定外だった。
「ヘリポートの進入区域にあたるかどうかは、通常は意識していませんから」
数年前から東京都や千代田区など行政とも協議を進めながら、ビルの高さなど計画を練ってきたという。まもなく両者の話し合いが始まった。以来、数回続く。
この庁舎には同省のほかに消防庁や警察庁、海上保安庁などが入っており、「大きな災害が起きた時に現地に人員を送って、上空からの実情調査や情報収集、指示、連絡調整といった役割を果たすのが主目的です」(総務省担当者)
首都圏で地震や災害が発生すれば、救急活動の拠点にもなる。
ビルの予定地は、千代田区有楽町1丁目1番地。三井不動産の計画によると、高さ198メートルの地上37階建て、延床面積は18万5千平方メートルにのぼる。容積率の緩和について都に都市再生特区の適用を提案し、その手続きが進んでいる。
一方、総務省設置のヘリポートは地上21階建て庁舎の屋上、地上99.5メートルにある。2004年7月に運用を始めた。双方の距離は約700メートル。ビルの予定地は、ヘリポートに設定された2方向の進入区域のうち、南東ルートの真ん中にある。図面で概算したところ、最上部の数メートルが区域にかかりそうだと分かった。ビルのほぼ2フロア分になる。
もっとも、三井不動産に法的な不備はない。総務省のヘリポートは公共目的で利用されているとはいえ、航空法上の位置づけは「非公共用」。誰でも離着陸ができるかどうか、で決まる区分だからだ。そして、非公共用ヘリポートには、進入区域とかぶる高層ビルが計画されていても、法的にその計画変更を求めることはできない。
どんな解決策が考えられるのか。国交省東京航空局に尋ねた。
「あくまで当事者の話し合いになります」一般論と前置きして挙げたのは、(1)ビルの高さを下げる、(2)ヘリポートの航路を変更する、の二つである。しかし、ビルを低くすると、全体の設計を変えたり採算を見直したりする必要が出てくる可能性がある。航路を変更するにはヘリポートの設置許可を取り直さなければならず、順調にいっても約1年かかるそうだ。
※AERA 2013年11月4日号より抜粋