是枝裕和監督(中央)の「そして父になる」は、スピルバーグ監督の米映画会社がリメークすることでも話題になった。アカデミー賞にも応募したが、国内選考で漏れた(写真/gettyimages)
是枝裕和監督(中央)の「そして父になる」は、スピルバーグ監督の米映画会社がリメークすることでも話題になった。アカデミー賞にも応募したが、国内選考で漏れた(写真/gettyimages)

 カンヌ国際映画祭(フランス)で審査員賞を受賞するなど、国際的な場でも評価されている映画「そして父になる」(是枝裕和監督)。こうなると、アカデミー賞(米国、来年3月)最優秀外国語映画賞も取るのではないか、と期待する人もいるだろう。

 しかし、断言してしまうが、「そして父になる」の受賞は100%ない。なぜならアカデミー賞に出品されていないからだ。

 同賞を主催する米国の映画芸術科学アカデミーは、最優秀外国語映画賞への出品について、1国1作品の規定を設けている。各国における選考は、その国の映画関連団体に委ねている。日本でその任を負うのは、日本映画製作者連盟(映連)。9月、映画関係者7人(評論家、脚本家、プロデューサー、監督など)による選考会を開催。国語辞書を編纂する出版社社員らの人間模様を描いた「舟を編む」(石井裕也監督)の出品を決めた。

 この選出、国内ではあまり話題になっていないが、海外の「映画通」たちからは疑問の声があがっている。米メディアではすでに、同賞の行方を占う記事が出ており、日本の出品に関して、次のような記述が目立つのだ。

「今年は、映画祭の世界で傑出している、少なくとも2作品が国内選考で選ばれなかった。インドの『ザ・ランチボックス』と日本の『そして父になる』だ」(米紙ロサンゼルス・タイムズ、10月7日付ウェブ版)
「日本からの知らせはショッキングだ。『そして父になる』が国内選考で落選したのだ」「どうみてもこれら2作品(『そして父になる』『ザ・ランチボックス』)は、それぞれの国の最有力作品だ」(米芸能誌バラエティ、9月23日付ウェブ版)

 日本での選考過程は見えにくい。審査基準に関して、アカデミーは「その国で最高の映画」と示すだけ。映連も、選考の理由や方法は非公表だ。選考委員の一人は個人的な見解と断ったうえで、海外での注目度が低い「舟を編む」が選ばれた理由を、次のように解説する。

「納棺師という文化的に特徴ある人物を描いた『おくりびと』が、日本映画で初めて外国語映画賞を取った(2009年)。それを非常に大きな収穫とする意識が委員にあったのかもしれない。実際、議論の中で、『舟を編む』を日本文化を伝えるものとして推す意見も出ました」

AERA 2013年10月28日号より抜粋