電車内でのベビーカー論争など、今、子連れの親のマナーについて議論が起こっている。このことに関して、作家の乙武洋匡さんと授乳服メーカー「モーハウス」代表の光畑由佳さんが対談した。
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──子連れの親のマナーについてはどう見ていますか。
乙武:ほとんどの方が非常に気を使っていると感じます。僕も電動車椅子でラッシュ時の山手線に乗らざるを得ない時は相当に勇気がいるし、申し訳なくて心臓が押し潰されそうになります。ベビーカーを押す親もどんなに緊張して乗っていることか。一部に、ストッパーをかけ忘れたり子どもが騒いでいるのに携帯とにらめっこしていたりする人がいるために、そこがクローズアップされて、ベビーカーで電車に乗る人は傍若無人でマナーがなっていないというイメージが広まってしまっている気がします。
光畑:私も大半の方は気を使っていると思います。ただ、赤ちゃんを泣きやませようとお母さんが携帯アプリであやし、お父さんがベビーカーを揺らし続けているのを見ると、もどかしく感じます。抱っこすれば泣きやむのに、便利な道具ができたことで、自分の本来の力を忘れてしまうのはもったいないです。
──国土交通省が、電車やバスでベビーカーを使う際の統一ルールを作る方向で検討を進めています。
乙武:ベビーカーを利用する側にもマナーが、見守る側には寛容性があるのが理想ですが、今の日本社会は理想とほど遠い状況にある。本来はルールで定めるようなことではないのでしょうが、現状を考えると、ある程度は仕方ないのかもしれません。
光畑:ルール作りは、いたちごっこになりそうな危険がありますよね。優先席があるんだから優先席だけ譲ればいい、という議論と同様、ルールや仕組みを作るほど、その枠組みから外れたことを許容できなくなる懸念があります。
公共施設の授乳室を、施設側や利用者の要望を聞いて整備しようとするときりがないんです。他の人に見られたくない、上の子が飛び出さないように、とトイレみたいな個室の授乳室が増えています。せっかく家から外に出てきて友達と過ごしているお母さんが、結局また閉じこもって過ごす。授乳室があるんだからそこでしか授乳すべきでないという意見を助長することにもつながります。
「大きなマザーズバッグの中には不安が詰まっている」と言った人がいます。泣いたら抱っこするなど臨機応変に対応する力と、子どもをケアする自信があれば、道具や設備に頼らなくても外出はできるはずです。
※AERA 2013年8月26日号