1世帯あたりの年間の喫茶店利用額は、全国平均5093円(総務省調べ)。これに対して、2倍以上の1万2367円を費やす日本一の喫茶王国が名古屋市だ。ここで生まれたのが、「珈琲所コメダ珈琲店」である。ロードサイドを中心に全国に505店舗、東京にも23店舗を出店する。「タリーズコーヒー」の513店舗に次いで業界4位である。
訪れたのは、名古屋市瑞穂区の本店。中に入ると、壁には太めの木材、古時計、赤いソファ。新聞、雑誌もそろっている。これはまるで……。専務取締役の駒場雅志さんは言う。
「応接間のようでしょ」
ドリンクとフードが運ばれてきた。ガラス瓶に入ったストロベリーシェークはプラスチック製のフタで閉じられていて、学校給食のよう。駒場さんは、「遊び心ですよね」と言って笑う。
看板スイーツ「シロノワール」がやってきた。焼いたデニッシュパンの上に、冷たいソフトクリームが。無心でかじりつく。ボリュームは満点。のどに流しこむため、コーヒーのマグカップをにぎる。駒場さんがこうささやいた。
「ウチのコーヒーはミルク負けしない味に調整しています」
やわな味ではやっていられない。カツサンドにもかじりついてみたが、やはりボリューミー。「ミルク負けしない」に合点がいく。
午後3時、店内にまったりとした時間が流れる。午後から夜にかけて利用客は平均1時間、滞在する。
「朝7時から11時のモーニングで1日の売り上げの30%前後を稼ぐ。ゆっくりしていただいて大丈夫です」(駒場さん)
コーヒーにゆで玉子とトーストなどがつく独特のモーニングサービスは、この地の喫茶文化と深いつながりを持っている。
雑誌「ひととき」13年4月号の記事では、そのルーツを繊維バブルに沸いた1950年代の愛知県一宮市に求めている。当時、どこの機屋も織り機はフル回転。やかましくて打ち合わせができないものだから、機屋の主人たちは喫茶店で打ち合わせをした。朝から訪れる常連のため、店主はサービスでゆで玉子やピーナツをつけるようになった--。
愛知県人にとって、喫茶店は「茶の間」で「会議室」なのだ。
いま、コメダが拡大路線を加速させる。今年2月、株式会社コメダは、投資ファンド「MBKパートナーズ」に株式を100%譲渡。出店ペースを従来の年間2けたから3けたに増やし、1千店舗を目指すという。
AERA 7月15日号