すがるような思いで資料を取り寄せた。都内で広告関係の会社を起業した女性(28)は、この資料をお守りのように大事にしている。未婚者でもできる未受精卵の卵子凍結──。
「これさえできれば、20代の卵子を保存できるから、心おきなく仕事に打ち込めます」
昨年、NHKスペシャルで「産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~」が放送されたあたりから、同世代の女友達の間で卵子老化や不妊についての話題がよく出るようになった。ネットや本で調べてみると、妊娠の確率は20代半ばから30代半ばにかけて緩やかに低下し、35歳を過ぎると一気に可能性が低くなる。40代ではなかなか妊娠、出産が難しいことがわかった。
結婚相談所と仕事をしたときに現実を聞かされたことも、焦りを助長した。相談所の関係者曰く、35歳以上の女性は、子どもができづらいという先入観をもたれるため、どんなにキレイでも男性からのオファーが減るという。たいしてキレイでなくても、20代の方が絶対人気がある、と言われたとき、その理不尽さに怒りがこみ上げた。
ネットを猛烈に検索して、見つけた自衛手段、それが「卵子凍結」だった。2007年に大手百貨店に入社した翌年に、リーマン・ショックのあおりで部署がなくなった。保険会社に転職したが、そこでも部署が縮小され、希望部署以外に配属された。好きな仕事をするために、貯金をはたいて当時の同僚3人で1年半前に起業した。
起業後は仕事一辺倒。事業を軌道に乗せるため、深夜まで営業や残務処理に追われる毎日で、デートする暇もなく、ここ2年間は彼氏と呼べる人はいない。いずれ結婚して、子どもは2、3人ほしいが、見通しが立たない。将来後悔しないために今できることをやっておきたいのだという。
ただ、卵子凍結にも不安があった。そこまでする前のめりな女は、男がひくのではないか。10人の男友達にリサーチした。
「35歳になったただの私と、20代の卵を持っている35歳の私、どっちがいい」
8人が「20代の卵あり」と答えた。中には、彼女が卵子凍結したいと言うなら凍結の費用を出してもいい、という男性もいた。それほどまで、男性にも「卵子老化」情報は浸透し、対策を講じている女性の方がウケがいいのだと感じた。
※AERA 2013年8月5日号