スタートアップ44田寮寮長・赤木優理(35)父も妹も京大という京大一家出身で、京大工学部建築科卒。授業に行かずに、アルバイトばかりしていたが、京大で学んだことは大きかった。「世の中で当たり前、とされていることを疑い、考えさせる校風だった」と言う。「理屈っぽいヤツが多かったです」(撮影/今村拓馬)
スタートアップ44田寮
寮長・赤木優理(35)

父も妹も京大という京大一家出身で、京大工学部建築科卒。授業に行かずに、アルバイトばかりしていたが、京大で学んだことは大きかった。「世の中で当たり前、とされていることを疑い、考えさせる校風だった」と言う。「理屈っぽいヤツが多かったです」(撮影/今村拓馬)
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ゆめみ代表取締役片岡俊行(36)深田浩嗣(36)深田(左)は工学部出身。「大学の教育は限りなく放置に近かった。入学するまでコンピューターなんてファミコンくらいしか触ったことがなかったのに、プログラミング実習の授業では、いきなり参考書をぽん、と示されて、『やれ』ですからね」(撮影/今村拓馬)
ゆめみ代表取締役
片岡俊行(36)
深田浩嗣(36)

深田(左)は工学部出身。「大学の教育は限りなく放置に近かった。入学するまでコンピューターなんてファミコンくらいしか触ったことがなかったのに、プログラミング実習の授業では、いきなり参考書をぽん、と示されて、『やれ』ですからね」(撮影/今村拓馬)

 関西の名門大学・京都大学。大人の目を気にしない「自由の校風」で、社会を変える人材を生み出している。

 東京・渋谷の古いマンションの一室にある起業家支援コワーキングスペース「スタートアップ44田(よしだ)寮」は、マックを小脇にかかえたオシャレなノマドワーカーが逃げ出したくなるような、雑然とした雰囲気だ。

「大人が踏み込めない、一昔前の学生寮みたいなスペースを作りたかったんです」

 運営する赤木優理(ゆうり)(35)はそう言う。

 モデルにしているのは、京大の学生寮「吉田寮」。京大工学部に入学した赤木はほとんど授業には出なかったが、時折、顔を出した吉田寮の空気は強烈だった。キャンパス内にあるが、運営は完全に学生の自治に任されており、ボロボロの木造建築のなかで昼間から酒を飲み、麻雀卓を囲みながら、哲学の話をするカオスな空間。変わったヤツがゴロゴロいた。

「44田寮」が支援した企業には、数学やビジネスなどに関する授業を生放送する「schoo(スクー)」、フェイスブック連動型の部屋探しサービス「ietty(イエッティ)」などがある。

 ニコニコ動画を立ち上げたドワンゴ創業者の川上量生(のぶお)(1968年生まれ)、個性的で良質な本を出版するミシマ社代表の三島邦弘(75年生まれ)など、京大はユニークな人材を輩出した。そこにはやはり根底に突き抜けた「自由さ」があるからだろう。

 ウェブソリューション事業を手がける「ゆめみ」代表取締役の片岡俊行(36)は吉田寮出身。高3のとき、時々高校を休んで京大の授業を聴きにいったが、「潜り高校生」の存在も黙認されていた。京大理学部に入学した後はほとんど授業に行かず、独学で数学や物理を学んだ。大学院は情報学研究科に進み、同じ研究室にいた深田浩嗣(36)らとともに、ゆめみを創業。

「吉田寮では月2千円くらいで暮らせていたから、起業して失敗してもなんとか生きていけるかな、と思っていました。大学院は休学、留年を繰り返して、そのまま起業。大学発ベンチャーじゃなくて、大学脱ベンチャーです(笑)」

 上下の人脈が強い慶應などとの最大の違いは、京大生の愛校心が少ないこと。ゆめみの共同代表取締役である深田は言う。

「京大卒の社長の集まりとかあっても同窓意識がないから、全然盛り上がらない。共通しているのは、『東大が嫌い』ということ(笑)。巨人阪神みたいなもので、東大は京大のこと気にしていないと思うんですが。ただ、東大に入れるけど、あえて京大を選ぶという人は昔から一定数いて、体制におもねらないぞと、変なことを面白がったり、楽しんだりすることを良しとする雰囲気がある」

AERA  2013年7月29日号