安倍首相が女性の活用を叫び、企業も制度を整える。だが、「出産退職」は過去の話ではない。子育てしながらの労働するための環境が整っていないために、今も働く女性の6割が辞める。そしてこの出産退職の動き、特にハイキャリアな女性に多いという。

 専業主婦の再就職支援をする「ビー・スタイル」のしゅふ活研究室長、川上敬太郎さんは、いま高スキルな専業主婦があふれていると話す。

「管理職経験者、経営や営業の専門職などハイキャリアな女性ほど、職務上時短勤務も取れず、忙しすぎて両立を諦めてしまうケースがある。働き方の自由度さえ高ければ続けられるのに、もったいない」

 同社では、過去の年収が500万円以上のハイキャリア層の主婦を企業に紹介するエグゼクティブパートエージェントという制度を持つ。中には、かつて年収1700万円だったMBA資格を持つ主婦が、月給22万円で週2~4日、17時までに限って働くという条件でマッチングが成立した例もある。企業にとっても優秀な人材をリーズナブルに確保できて効果的だという。

 出産しても能力を最大限に発揮して働きたい女性は多い。それなのに「子育てする女性なら、仕事は“ほどほど”を望んでいるだろう」という先入観が、退職の原因にもなる。流通系の会社に勤めていたE子さん(32)は、出産2週間前まで働き、産後は4カ月で職場復帰した。育休前に上司に言われた。

「戻ってきて成果が出れば、すぐに昇進できるから」

 子育てしながらでもキャリアアップできる、とやる気が湧いた。復帰後は時短勤務だったが、昼ご飯を抜いて仕事し、忙しいときは延長保育を利用して働き、成果を上げた。だが、人事面接で言われた。

「子どもが小さいから昇進は様子見だね」

 言うことが全く変わった。育休中に会社の体制が変わったことも影響したのかもしれない。半年後も、1年後も「様子見」は変わらなかった。会社を見渡せば、管理職のうち女性は1割以下で、みな独身。いまがつらいだけでなく、「将来」も見えないことが、報われなさに拍車をかけた。復帰後1年5カ月で、人事部にこんな質問書と一緒に辞表を出した。

「出産後の女性が出世を望むのはおかしいですか」

 人事部の担当者は理解を示してくれたが、続ける気力はなかった。橋本智子弁護士は言う。

「妊娠中や出産後どこまで仕事ができるかは、本人の希望や体調、子どもの健康など様々な条件で違う。企業が個々に応じて丁寧に対応しなければ、両立を諦める女性は後を絶たない」

AERA 2013年7月15日号