がん発症のリスクなどを調べることができる遺伝子検査。がんと遺伝子の関係が明らかになりつつあるなか、乳がんにも「国民性」があることがわかってきたという。昭和大学医学部乳腺外科教授の中村清吾医師に話を聞いた。
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乳がんにも「国民性」があることが、少しずつわかってきています。日本人と欧米人では、乳がんの発症年齢の分布が全然違い、欧米人は閉経後に発症するホルモン陽性タイプの乳がんが多く、発症年齢のピークが60代後半。45歳未満は乳がん全体の3~4割ですが、日本人は45歳未満が5割近くに達します。
(異常があると乳がんや卵巣がんに罹患しやすくなる遺伝子)BRCA1、2は、原因遺伝子の7割近くを占めると推定されていますが、P53、PTENといった、他の原因遺伝子も見つかっています。最近は、ゲノム情報を一度に調べられる「次世代シーケンサー」も登場し、個人についても、ゲノムをまるごと読む「ホールゲノム」時代が訪れようとしています。将来乳がんを起こす確率が高い変異なのか、そうでないのかという塩基の配列ごとの対応表がそれぞれできれば、1人の人を次世代シーケンサーにかけて、1度の検査で複数の代表的な原因遺伝子を同時にチェックすることも可能になってくる。
国ごとの傾向がわかるようになれば、より精度の高い予測のもとに、予防や治療、検診などのプログラムを組み立てられる。日本でも厚生労働省が研究を重ねた結果、BRCA2の人の方が多いとされていた実態が、最近ではBRCA1の人の比率が増えるなどデータは更新されています。
自国のデータベースの作成は重要。韓国では1千人以上の陽性者のデータを集めていて、独自のリスク解析ソフトも作っている。日本はまだ260人を対象にした検査で、陽性の人が80人というデータを出している段階。一人ひとりにふさわしい予防や治療法の選択を手助けするためにも、日本人独自のデータベースを作りたい。海外のデータに頼らざるを得ない状況を打破しなければと思っています。
※AERA 2013年7月15日号