安倍首相誕生で再燃しそうなのが対中問題だ。
公約に掲げたのは「国益を守る、主張する外交」。尖閣諸島を国有化後、中国公船が領海への侵入を繰り返す事態を「民主党の外交敗北」と批判し、「実効支配の強化」を宣言。公務員を常駐させ、船だまりの整備も検討、と関係修復に動くどころか、敵意をむき出しにしている。
しかし、安倍氏の言葉を額面通りに受け取る向きは少ない。
「あれはナショナリズムに訴える売り文句。日本の置かれた現実と向き合わざるを得ないことは、安倍さんもよくわかってるはずだ」(関係者)
「現実」とは何か。
前回、総理に就いた2006年。安倍氏は、小泉首相の靖国神社参拝で悪化した日中関係を改善しようと、最初の外遊先として中国を訪問。経済面を含む「戦略的互恵関係」の構築にこぎつけた。だが、今回の「火種」は領土問題で次元が異なる。
さらに当時と比べ、決定的に違うのは中国の立場だ。いまや国内総生産(GDP)は日本を抜いて世界2位。国防費は「過去24年間で約30倍」(防衛白書)に膨らんだ。そもそも「今の中国は、日本が一国で対峙できる相手ではなくなっている」(孫崎享・元外務省国際情報局長)。おのずと選択肢は、公約に掲げた「日米同盟の強化」に傾く。安倍氏はすでに最初の外遊先を米国と公言している。その米国は日本に対し、「対中外交での注意深く、慎重で効果的な行動」(クリントン国務長官)を求めている。
※AERA 2012年12月24号