10月1日に施行された「大阪府子どもを性犯罪から守る条例」。18歳未満に対する強姦や強制わいせつ事件が全国最多の大阪府が、子どもに安全な社会の実現を掲げて制定したものだ。その理念自体は広く支持される一方で、全国初の取り組みを含め、中身には危うさが漂う。

 府は今回の条例で、国内のどの自治体も踏み込んでいない領域に歩を進めた。それが、性犯罪で受刑した人に対する届け出の義務化だ。

 対象は、18歳未満に対する性犯罪で服役し、出所から5年以内に大阪府内に居住する人。氏名や住所、生年月日などとともに、罪名と刑期終了日を書き込んだ文書を府に出させる。届け出なかったり、虚偽の内容を届け出たりした人には、5万円以下の過料を科す。

 ベースにあるのは、性犯罪を犯した人は再犯の可能性が高いとの認識だ。府が参考にした警察庁の統計によれば、13歳未満への暴力的性犯罪で受刑した人の再犯率は6.6%だ。性犯罪は子どもに深刻な影響が及ぶことも、府が性犯罪の元受刑者を「特別扱い」する根拠にしている。

 では、集めた情報はどう利用するのか。

 府は、元受刑者の「社会復帰支援」に使うとする。連絡が取れれば、カウンセリングや就職の支援などができると話す。

 ただ、この「社会復帰支援」は、今回の条例が制定されたいきさつに照らすと、取ってつけた感が否めない。

 さらに、府が実施する社会復帰支援の中身には、関係者からも疑問の声が上がる。

 府は希望する元受刑者には、考え方のゆがみを正す「認知行動療法」のカウンセリングを提供する。ただ、精神科医で性障害専門医療センター代表理事の福井裕輝さんによると、性犯罪者にはホルモンの異常や脳機能などに障害を抱えた人も多い。そのため、まず医師が元受刑者の状態を見極め、方針を立てることが欠かせないという。

 ところが、府が「社会復帰支援員」に委嘱したのは臨床心理士とソーシャルワーカー2人ずつで、医師はゼロ。

「有効性と財政面の問題から、医療支援は考えていない」

 と長澤さんは言うが、今回の条例策定で審議会委員を務めた福井さんは、こう指摘する。

「本当に性犯罪者の社会復帰を目指すなら、医療の視点も必要なはず。審議会でもそう訴えたが結局は抜けてしまい、監視の部分だけが残った印象です」

AERA 2012年12月10号