日中関係の悪化で、ビジネスにどんな影響が出たのか。アエラは2年ぶりに、「中国に勝った日本人」たちに、その影響を聞いた。

 アエラは、2011年の新年合併号で「中国に勝った日本人100人」を特集した。彼らは、独自のセンスや技術力、並大抵ではない努力や人柄を武器に、中国社会に入り込み、根を張り、仕事で成功を収めていた。その彼らが、今までにはない苦難を感じている。

 アエラでは彼らに緊急アンケートを実施し、52人から回答を得た。「日本からの投資案件、日系企業の移転案件がストップ」(土屋哲朗・インテリアデザイン事務所経営)、「講演活動はほとんどできない状態に」(笈川幸司・日本語教師)など、仕事のキャンセルが相次ぎ影響が出た人が多数いた。

 それ以上に、回答全体から伝わってきたのは、心理的な影響の大きさだ。「私自身、一生懸命に中国で培ってきたものが崩れ落ちてしまいそうな感覚になった」(高山貴次・日本料理店経営)、「少しずつ積み重ねていた積み木が一気に崩れてしまった」(藤本龍一郎・テニススクール経営)など、築き上げてきたものの脆さを痛感して、途方に暮れる人もいた。

 アンケートの回答では、日中関係悪化を受け、「日本、中国とも明るい展望が描けないので、英語圏への移住、商売拠点の移転を考えている」(内田信・ベビー用品通販サイト運営)、「上海を拠点に近隣諸国にも展開はしておくべきなのか、と考えさせられた事件」(小川訓央・インテリアデザイナー)など、“脱中国”を考え始めたという意見もいくつかあった。だが、ほとんどは「それでも中国を選ぶ」だった。

「日本では中小企業が利益を出し続けることは難しいが、この国ではふつうに王道を真面目にやれば安定した経営ができる。商売人として血が騒ぐ場所だ」

 そう言うのは、中国全土に食品スーパー、鮮魚店、レストランなど直営、テナントあわせて68店舗を展開する石橋修(48)だ。01年に中国にスーパー1号店を開店して以来、新型肺炎SARSや首相の靖国神社参拝を受けた反日デモなど、いくつもの「波」をかぶってきた。異国でビジネスをする以上、リスクがあるのは当然、これからも「ふつう」にやっていく、と覚悟を決めている。

AERA 2012年11月5日号