近年、若き社会学者を続々輩出している東大大学院の「上野ゼミ」。ゼミの担当教授・上野千鶴子(現・東大名誉教授)は彼らに何を教えたのか。

 東日本大震災後、注目を集めた『「フクシマ」論』の著者、開沼博は東大2年の時、専攻を決める「進振り(進学振り分け)」前に上野ゼミに入った。

「日本社会を見る上で一生取り組める課題は何かとひたすらロジックで考えた結果、原発が浮かんだ。長くテーマを扱う上で、こんなに汎用性のあるものはない」

 開沼の確信に反して上野の指導は厳しかった。「あなたが考えていることは先行研究でやられているよ」と追及の手を緩めなかった。

「知らない人が見たら、パワハラかと思うほどでした」

 だが、叩かれたおかげで、中央と地方に宿る二重の意味での「原子力ムラ」の関係性を丹念に炙りだすことに成功した。

 出版のきっかけは震災1週間後にあった上野宅での集まりだった。開沼が偶然持っていた修士論文のコピーを、たまたま隣に座った青土社の編集者に渡すと、帰りの電車で出版が決まった。
 いまでも開沼は上野に会うと「うわ、本物の上野さんが目の前にいる……」と感慨がわく。

「小柄な方ですが、存在はでかい。一生乗り越えられない強烈な感覚を感じます」

AERA 2012年10月15日号