北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回はドナルド・トランプ大統領と安倍晋三首相の共通点について。

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 ここにA氏(推定60歳前後)がいる。社会的地位はかなり高く、教養もあり、周囲からの信頼も厚く、某業界を代表し国際会議などで発言の機会も多い男性だ。特定されないよう具体的なことは書けないのだが、まぁ、そのA氏が国際会議で大恥をかいたのである。

 それは女性に関する発言だった。A氏は「セクハラ罪という罪はない」などという大臣の発言に「それは違うのではないか」と考えられる常識はあるのである。しかし、その程度では国際会議では通用しなかった(なにしろ女性がたくさんいましたし、科学的実証を重んじる学術的な場でしたので)。彼が自信を持って発言した「我が業界では女性にはこのような策を取ってます」という発言に、世界はどよめき、失笑し、どん引きしたのだった。「まじで? 日本って先進国じゃねーの?」という調子で。

 フツーの男性だったら、「私を侮辱した国際社会を断じて許さない! 脱退する!」みたいな大日本帝国的過ちをしかねない場であったが、幸いこのA氏は素直な性格だった。彼は帰国後に変化した。これまで女性スタッフがいくら言っても耳を貸さなかったことを次々にやりとげ、女性の権利問題に身を乗り出したのだ。適度な恥は、良い結果を導く。

 A氏の身近で働く女性からこの話を聞き、私の頭に浮かんだのは、ドナルド・トランプと安倍晋三のことだった。

 2011年、当時のオバマ大統領にトランプは執拗(しつよう)に「出生証明出せ!」というキャンペーンをしていた。そのトランプをオバマはホワイトハウスで開かれる記者団夕食会に招待し、数百人もの客人の前で、徹底的にからかったのだ。「ハワイ州が私の出生証明を出してくれた。これでやっと、大事な議論ができる。例えば我々は本当に月に着陸したのかとか?」といった具合に。オバマの煽(あお)りに会場は激しい笑いに包まれるのだが、当時の映像には、トランプの強(こわ)ばる背中や、青ざめるようにゆがめた笑顔が残されている。アメリカの記者の間では、トランプはこの夜に「絶対に大統領になる」と決意したと言われている。強烈な恥が、トランプを生んだのだ。

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