古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など
古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など
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安倍首相と今井首相秘書官(左) (c)朝日新聞社
安倍首相と今井首相秘書官(左) (c)朝日新聞社

 安倍晋三首相による「突然の」一斉休校要請で日本中が大混乱に陥った。何の準備もないままの強硬策に、巷の評判は散々。桜を見る会などのスキャンダルで支持率急落の窮地に立たされた安倍政権が賭けに出て大失敗したとさえ言われる。

【写真】パフォーマンス好きは安倍首相だけではない?

 では、安倍首相の最側近として、今回の要請を強力に推し進めたとされる今井尚哉首相秘書官はどう考えているのだろうか。

 実は、「まずまず」だと感じているのではないか、というのが今回のテーマだ。

 2月29日の安倍首相の記者会見を見て思い出したのは、アメリカで人気の政治ドラマだ。スキャンダルで危機に陥った大統領が、防御だけではじり貧で窮地に追い詰められるという場面で反転攻勢に出ようと、自ら別の危機的状況を作るというお決まりの展開だ。

 桜を見る会や検察官の定年延長問題で野党にやられっ放しの安倍政権が、批判や混乱は覚悟のうえで、あえて「戦略的に」休校要請に打って出たと見ると、意外と筋が通る。

 こうした場合、批判されるリスクは問題ではない。致命傷を負った安倍首相だからこそ、「致命的でない」批判はいくらでも甘受できる。そのために新型コロナウイルス問題をどう使うかだ。今井氏はこう読んだ。

 ──まずは、テレビがコロナ一色になることを狙う。そのために一斉休校ならインパクト十分。必ず、野党はこれに食いついてくる。実は、野党のほうにも、桜を見る会ばかりやっていると、「そんなことよりコロナのほうが大事だ」と国民から批判されるという不安感がある。また、コロナのほうがテレビ受けが良いなら、コロナをやって露出を高めたいという誘惑もある。そんな野党に対しては、むしろ批判の材料を与えたほうが良い。批判できるとなれば渡りに船で、野党のほうが、桜を見る会からコロナへのシフトを進めたくなる──

 結果は、今井氏の読みどおりだ。野党議員は、休校批判が受けるのを知って、喜んでコロナ問題に集中するようになった。パフォーマンス好きは安倍首相だけではないのだ。桜や検察の話題は完全に霞み、今井氏の目的はかなりの程度、達成されたように見える。

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