北欧から送られてきた静謐な音
The Door / Mathias Eick
5月上旬に取材のためノルウェーを訪れた。西海岸の都市スタヴァンゲルで開催された「Jazz Norway in a Nutshell」(略称MaiJazz)の出演アーティストの中で、同国を代表する旬の1人となったのがマティアス・アイクである。ヤカ・ヤシスト、モティーフ、トロンハイム・ジャズ・オーケストラ等で経験を重ねてきた28歳のトランペッターだ。
これはキャリアに輝かしい新たな1ページを加える、幸運なECMからのデビュー作。このレーベルへのレコーディング・アーティストというだけで、世界的な注目を集めるからだ。
本作はMaiJazzで観た新世代2リズムに、ベテラン鍵盤奏者ヨン・バルケが加わったカルテット+1(ちなみにバルケは大編成プロジェクトSiwanを率いて同祭に出演した)。
ライヴを観た後にアルバムを聴いたことをお断りした上で言うと、本作はアイクが持っている数多くの引き出しから一点にポイントを絞ったアルバム・コンセプトによって制作されたものである。というのもライヴでは70年代初期のマイルス・デイヴィスからの影響を感じさせたのに対して、本作はあくまで静謐な雰囲気を基調とした音作りだから。
オープニングのタイトル・ナンバーはドラムンベース風のビート感覚を下敷きに、北欧的な空気感と浮遊感を醸し出したサウンド。エンディングに向かってじわじわと盛り上げていく楽想は、厳しい自然環境によって培われた彼の地の国民性の反映とも考えられ、アイクがECMに抜擢された理由にも共感できる。音色にこだわったトランペット・プレイを含め、バンドの繊細な表現に平常心で耳を傾けたい。おのずとスカンジナヴィアン・ジャズの現在が見えてくるはずだ。
【収録曲一覧】
1. The Door
2. Stavanger
3. Cologne Blues
4. October
5. December
6. Williamsburg
7. Fly
8. Porvoo
マティアス・アイク:Mathias Eick(tp,g,vib) (allmusic.comへリンクします)
ヨン・バルケ:Jon Balke(p,el-p)
オードン・エルリエン:Audun Erlien(b,g)
オードン・クレイヴ:Audun Kleive(ds,per)
スティアン・カーステンセン:Stian Carstensen(pedal steelg)
2007年9月オスロ録音