北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は公共交通機関での「ベビーカー問題」について。

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 先日、都バスに乗っている時のこと。さして混んではいないが立っている人が目立つという状況で、運転手がバスを走らせながらこうアナウンスした。

「ベビーカーのお客さん、混んできたので、ベビーカーを畳んでください」

 私は通路に立っていたが、その背後にベビーカーをピッタリ自分に引き寄せて身を小さくしている20代のお母さんがいた。大きなバッグを手に抱えている。当然彼女は戸惑ったように「でも、まだこの子、立つことができなくて……」と言うのとほぼ同時に「畳まなくていい!」と思わず大きな声が出てしまった。

 フィンランドからの帰国直後で、ヘルシンキ・ハイだったのだと思う。は? 何故ベビーカー畳ませる? 赤ちゃん今乗ってるんですけど? は? ヘルシンキは公共スペースにベビーカー置き場あるけど? だいたい北欧のベビーカーは日本の2倍あるけど、誰も邪魔扱いしないよ? 日本のベビーカーが小さいのは、日本の気持ちの小ささに合わせてる?という思いで運転手のところまで行って(私が移動できるくらい空いているのだ)、「子ども抱えて、動くバスの中でベビーカーを畳むのがどれだけ大変か、わかります? 酷(ひど)くない?」と訴えた。それでも私とそう年の変わらない運転手は平然と「規則ですから!」と言うのだった。「子どもは荷物じゃない」「都バスに意見します」と言っても、「どーぞ」と薄笑いを浮かべるのだった。

 確かに都バスのHPには混雑時にはベビーカーを畳んで、と書いてある。でも、このルールが、おかしい。ベビーカー抱えて、子ども抱きかかえ、どうやってラッシュ時に移動できるのか。公共の場で女と子どもに厳しい国、さすがジェンダー121位……と納得している場合じゃないけれど。

 ベビーカー問題は、古すぎるほど古い問題でもある。山手線がベビーカーを畳まなくていいとしたのは、2000年代に入ってからだが、それまでも、そして今もまだ親たちはベビーカーを畳み、肩身狭く、重たく不自由な思いを強いられ、移動してきた。なぜなら通勤時間の乗り物はサラリーマン専用だから。女性や子どもがいる場所だと考えられていないから。公共の乗り物なのに。

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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