年間300万人を超す観客を集める宝塚歌劇。100年超の伝統から、劇団員らには数多くの決まり事があるが、隆盛を支えるファンクラブも実は歌劇団に負けず劣らずの独自のルールがあるという。「掟(おきて)」とも言える、知られざるその中身の一端をご紹介しよう。
【宝塚ブロガーがつくった「タカラジェンヌ的人生ゲーム」はこちら】
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東京・日比谷の東京宝塚劇場。夜公演がある日の午後10時になると、劇場の外周に沿うように、一群の女性たちが整列を始める。タカラジェンヌたちが帰るのを見送る、いわゆる「出待ち」だ。
演劇の世界で出待ちは珍しくないが、タカラヅカファンのそれは独特である。いくつもの集団が形成されていて、それぞれが規律正しいのだ。
よく出待ちをする女性ファンが言う。
「スターたちにそれぞれファンクラブ(ファン会)があって、会ごとに並んでいるんです。並び順も決まっています」
花・月・雪・星・宙の組ごとに微妙に違うというが、スターの序列を表す「番手」と、年功である「学年」の組み合わせが基本だ。
見送り方も決まっている。スターが通る時は一斉に座り、通り終わったら一斉に立ち上がる。
「トップスターの会の仕切り役の方が号令をかけるんです。『座りま~す』『立ちま~す』に合わせて動きます」(女性ファン)
決まったお作法があるからこそ規律正しくなる。出待ちをするファンの数は連日100~数百人にのぼり、彼女たちが一斉に座ったり立ったりする光景は壮観ですらある。
「ファンクラブに限らず、タカラヅカは『決まり』が多い世界です」
こう話すのは、このほど『タカラヅカの謎 300万人を魅了する歌劇団の真実』(朝日新書)を上梓した阪南大学流通学部の森下信雄准教授だ。
森下准教授は、宝塚歌劇の主催者である阪急電鉄の元社員で、1998年から2011年まで、星組プロデューサーや宝塚総支配人を歴任するなど歌劇ビジネスに携わってきた。『タカラヅカの謎』はその経験をもとに、歌劇団の人気の秘密を解き明かすものだ。