夫は映画監督の高橋伴明。1男1女の母であり、孫もいる。つまり、女優であり妻であり母であり、祖母でもある。映画監督と女優の夫婦は家庭でも演技論をかわしているのかと思いきや、「全然。家では演技の話なんてほぼしません」

 と断言する。長女でマネジャーの高橋佑奈さんは「両親は仕事の話、本当にしないですね。おいしいご飯屋さんを見つけたから行ってみようとか、普通の会話をしてます」と話す。

「好きな観葉植物の話はよくします。葉っぱの育ちがいいから、きっとこれから出てくる葉っぱは立派なのが出てくるわとか、孫の話とかが多いかな。この前も、夫と私、それに高1と中3の孫の4人でご飯を食べに行って、進路の話を聞きました。そのあと夫とお酒が飲めるところに行きましたが、普通の穏やかな話しかしませんね」

 家庭での話になると女優より母親の顔が前面に出てくる。

「以前、ゴキブリが出たことがあるんです。夫も娘もみんな苦手で、キャーキャー、ギャーギャー騒いでるだけ。私はキャ~ってならないタイプなので“任せなさい!”って。『もう出てきちゃだめよ』と伝えて退治しました」

 話しかける生き物は、庭を訪れる鳥や観葉植物だけではなかったのだ。高橋さんが生き物に向ける分け隔てない優しさに気づくと、これまでの記者の質問に答える高橋さんの言葉の端々に感謝のワードがたくさんちりばめられていることにも思い当たった。「ありがたい」「感謝しなくちゃ」という言葉をいったい何回発したかわからないほどだ。それを伝えると、高橋さんはこう答えた。

「生まれてこられただけでも嬉しいという気持ちを忘れないようにしているんです。これは私の兄のおかげなんです」

 高橋さんには10歳年上の兄がいた。脳性まひで歩くことができず、学校にも行けなかった。高橋さんが3歳のとき、13歳の短い人生を終えた。

「つらいことや逆境に立ったときには、兄を思い出して自分を勇気づけます。早世した兄の分まで一生懸命頑張ろうって。両親は兄を産んだ後、次の子供にも障害があるかもしれないと不安だったそうですが、私を身ごもったとき、産んでくれた。両親は私のことを天からの恵みだ、恵の子だということで惠子と名付けてくれた。そのとき産む決断をしてくれたから今の私がいる。私の中には常にそういう意識があるんです」

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