

芸能生活50周年を迎えた高橋惠子さん。1月16日から始まる舞台「黄昏」では、かつて同名映画でK・ヘップバーンが演じたヒロインを演じる。円熟の演技を支えるのは、「感謝」の気持ちだった。
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年の瀬のとある朝。高橋さんは、自宅で育てている観葉植物に「今日も葉っぱがツヤツヤね」「元気そうね」と、ひと鉢ずつ声をかけながら水をやる。そして庭を訪れた鳥たちにも話しかける。「とっても可愛い色合いね」「気持ちがいい朝だわね」。この日は1月から始まる舞台「黄昏」の舞台稽古の初日。女優として特別な日だが、いつも通りに朝のルーティンを行ってから稽古場に出かけた。
「自然豊かな北海道の原野みたいなところで生まれ育ったので、生き物との触れ合いが大好き。観葉植物って、話しかけてあげたほうが立派に育つんですよ」
舞台「黄昏」で設定されている場所は、アメリカ・メーン州の湖畔の別荘。美しい自然に囲まれたこの地で48回目の夏を過ごす老夫婦の愛情あふれる物語だ。1981年には映画化され、ヘンリー・フォンダ、キャサリン・ヘップバーンが出演してアカデミー賞各賞を受賞している。映画でキャサリン・ヘップバーンが演じたエセル役を、この舞台で演じるのが高橋さんだ。
「映画は昔見ました。いい映画ですよね。当時はまだ若くて、自分が老いていく実感なんてなかったのに、ヘップバーンとヘンリー・フォンダの感じがすごくよかった。今回、舞台の台本を読んで、この物語は別荘地で展開するという点がポイントだと思いました。豊かな自然に囲まれて、都会の日常とは違う生活をする。ゆったり釣りをしたり散歩をしたり。そういう特別な時間の中で、今までともに生きてきた夫婦や親子関係のぎくしゃくしたものが癒やされたり、見つめ直されたりする。もし、この物語がニューヨークの摩天楼の家の中で展開されるのであれば、きっとまったく別のお話になると感じましたね」
この日の朝の高橋家のように、舞台の中でも湖畔に水鳥が訪れる。日常的に野鳥や植物を愛(め)でる気持ちを大切にする高橋さんには、まさにうってつけの役柄かもしれない。