作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏はジャーナリスト・伊藤詩織さんが民事裁判で勝利したことについて筆を執る。
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伊藤詩織さんの民事裁判での勝利、本当に嬉しい。判決の日、一番前に座って裁判官の判決を聞いた。
事件から4年9カ月。長い長い闘いだっただろう。この日、判決は結論だけ「被告は330万円を支払え」と最初に読み上げられた。詩織さんの請求は1100万円だから3分の1だ。それでも日本の民事裁判でこの金額が出ることは、完全勝利といっていい。
被告とその弁護士は、裁判で詩織さんを貶め続けてきた。詩織さんがニューヨークのピアノバーで働いていたことを、「キャバクラで働いていた」と敢えて「キャバクラ」という言葉を使って何か意味をもたせようとしたり(だからなに?ではある)。詩織さんが名を出し顔を出し闘っていることを、被告を貶める意図を持ってやっているのだと匂わせたり。
判決は、被告の言い分を完全否定し、詩織さんの闘いを「公共の益に係る」と明言した。
いま、性暴力被害者が性暴力のない世界をめざし、大きな声をあげるフラワーデモが、全国に広がりつつある。もしかしたらそういう私たちの声が、裁判所に届いたのではないか。安倍政権の顔色ではなく、世の中の空気を読む裁判官がいるのだ、と思えることが私の希望にもなった。
そして改めて、この事件の気味悪さが、不可解さが、浮かび上がる。なぜ、逮捕状が、当時の警視庁刑事部長の中村格氏の一声でつぶせたのか? 山口敬之氏は事件後に、週刊新潮に誤って事件に関して「北村」宛てに助言を求めるようなメールを送っているが、この北村とは、当時の内閣官房内閣情報調査室のトップ、北村滋氏ではないかと言われている。総理礼賛本を2冊書き、官邸との距離が近いとされている山口氏の人間関係から言えば自然な推察だ。
それでも記者会見で「北村とは誰?」と聞かれると、「弁護士の父の友」としか答えず、「その友は弁護士か?」と質問されても、「迷惑をかけるから答えられない」の一点バリで曖昧に濁す。ちなみに内閣官房内閣情報調査室のHPをみたら、そのミッションとして「総理の目と耳としての役割」というのがあった。目と耳だけ、というのが、じわじわと不気味である。