日本では今回も、こうした制度は導入されそうにない。ちなみに除去作業時の測定は、日本よりはるかに石綿使用量の少ないフィリピンでも2000年から義務づけられている。アスベスト対策では先進国レベルにほど遠いのが実態だ。

 厚労省や環境省の担当者は、規制強化の意義を次のように強調している。

「残された論点もあるが、現在ある課題に対応するとりまとめになっている」(厚労省化学物質対策課の担当者)

「レベル3建材に法令上の義務や作業基準が掛かるなど、規制強化を図る内容となっている」(環境省大気環境課の担当者)

「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」所長の名取雄司医師はこう警告する。

「今回の改正案は抜本的な対策になっていません。韓国も含めて諸外国は規制をどんどん強めているのに、日本はしていない。このままでは、改修・解体による石綿飛散で、40、50年後も人が死に続けることになります」

 日本では現在、石綿を外部に飛散させること自体には罰則がない。どのぐらい飛散させたのか測定する義務もなく、私たちは危険性を知ることすらできない。

 中皮腫の発症原因の大半が、石綿を吸ったことだとされる。中皮腫による死亡者は、統計を取り始めた1995年の500人から、20年間で3倍超まで増えた。累計では1万人を超えており、40年には計10万人を超えると予想されている。肺がんなど中皮腫以外の石綿関連疾患を含めると、すでに年間2万人近くが死亡しているとの推計もある。

 危険な発がん物質が、私たちの周りにあふれているのだ。にもかかわらず、工事期間が長引くなどとして、規制に反対する経済界に国は配慮している。抜本的な規制強化には及び腰だ。“命より経済優先”の考え方を国が改めない限り、犠牲者はなくならない。(ジャーナリスト・井部正之)

※週刊朝日オンライン限定記事

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