アスベストが付着した鉄骨を調べる様子
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調査で見つかったアスベスト。吸い込むと中皮腫などになる危険性がある
調査で見つかったアスベスト。吸い込むと中皮腫などになる危険性がある
アスベストが飛散する不適切な工事が行われていた解体工事現場=大阪府守口市、撮影・井部正之
アスベストが飛散する不適切な工事が行われていた解体工事現場=大阪府守口市、撮影・井部正之
石綿規制の改正方針を了承した厚生労働省の検討会=2019年12月、撮影・井部正之
石綿規制の改正方針を了承した厚生労働省の検討会=2019年12月、撮影・井部正之

 年間1500人超もの命を奪っているアスベスト。海外に比べ対応が遅れていた日本でも、ここに来て改めて「規制強化」が検討されている。だが、国が経済界に配慮したこともあって、規制が不十分といった指摘が相次ぐ。このままでは、死者の続出を止められない恐れがある。

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 まずはアスベスト(石綿)について、おさらいしておこう。太さが髪の毛の数千分の1程度の繊維状鉱物で、空気中を漂っていても目に見えない。耐久・耐熱性に優れ安価だったため、様々な製品に使用された。

 吸い込めば、がんの一種の中皮腫などにかかるリスクが高まる。病気になるのは吸い込んでから数十年たっているケースが多く、「静かな時限爆弾」とも言われる。

 日本では石綿を0.1%超含む製品の製造や輸入、使用などが2006年に原則禁止され、12年には全面禁止された。

 日本は世界第2位の「アスベスト消費大国」で、過去に約1千万トンを輸入し、その約8割を建築材料として使用してきた。国土交通省の調査によれば、危険性の高い吹き付け石綿が使用された建物は最大で約280万棟に上る。その解体ピークは約8年後の28年だとされている。

 さらに、木造や戸建て住宅など約3300万棟にも、石綿を含む建材が使用されている可能性がある。東京五輪や大阪・関西万博を控え、多くの建物が改修・解体されるなか、石綿が飛散する危険性は高まっている。

 私たちの命を守るためには飛散しないように工事をすべきだが、不適正な作業が後を絶たない。環境省によると、14年以降に、全国147カ所の改修・解体で事前調査が適切にされず、石綿を含む建材がきちんと把握されないまま工事が始まっていた。ずさんな作業により、都道府県などに指導される事例も目立っている。

 こうした状況を受けて、厚生労働省と環境省は規制の改正に向けた方針案をまとめた。問題はその中身である。両省は「規制強化」とアピールしているが、詳細に見ていくと疑問だらけだ。

 環境省が担当するのは、生活環境の保全を目的とする「大気汚染防止法(大防法)」の改正。目玉とされるのは、石綿を含む成形板など飛散性が低いとしていた「レベル3」の建材について、規制対象に加えることだ。

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先送りされてきた規制強化