ところが、レベル3の規制は、厚労省が担当する「労働安全衛生法石綿障害予防規則(石綿則)」では、05年からすでに導入されている。環境省でも同じように規制すべきだという意見が05年当時からあったのに、これまで“サボって”きたのだ。
厚労省の石綿則の改正では、改修・解体工事の事前調査をする者に講習の受講・修了を義務づけるほか、調査手順の明確化などを予定しているという。事実上先送りしていたものをやっと導入するだけなのに、規制強化だとアピールしているようなものだ。
改修・解体工事における石綿の調査自体は05年に義務づけられており、本来ならその時に、今回のような仕組みを整備しておく必要があった。整備が遅れたため、専門的な能力がない業者が目視で石綿の有無を判断する状況が、十数年間にわたって続いてきた。
石綿則では、これまでビルや工場が主だった石綿の調査結果を届け出る義務について、一般住宅などにも拡大する。解体なら床面積80平方メートル以上、改修なら請負金額100万円以上の場合、調査結果を労働基準監督署などに届ける。この規制によって、届け出件数は18年に約1万3千件だったものが、200万件超に増えると見込まれている。
届け出件数が増える方向なのは前進かもしれないが、実効性には疑問が残る。新たな届け出規制は建設業者などに配慮して、スマホで手続きできるような簡単なものになるとみられる。レベル3建材の場合、作業計画はおろか、使用場所すら報告しなくてよい。これでは調査結果や作業方法が適切なのか十分に把握できない。
しかも、専門家が求める石綿の曝露・飛散防止対策の強化は、経済界の反対で今回も見送られる方針だ。
NPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏ら専門家は、「日本の石綿対策は調査・管理・分析・除去・最終処分まですべての工程に問題がある」などと指摘。抜本的な規制強化を求めてきたが、今回も先送りが目立つ内容になっている。
海外では石綿を扱う業者についてライセンス制度を導入するなど、各工程について専門家が担う仕組みが当たり前になっている。第三者的な専門家が検査・測定することで、作業の安全性を確保することも行われている。