

平成時代に横綱へ昇進した最後の男、元稀勢の里。2019年、初場所途中で、17年間の力士生活に終止符を打ち、荒磯親方を襲名、9月にマゲに別れを告げました。3代目若乃花以来、19年ぶりとなる“和製横綱”で、日本中のファンを沸かせてきた親方の素顔に、作家の林真理子さんが迫ります。
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林:お読みになったかもしれませんが、引退なさったあと、内館牧子さんが「週刊朝日」に「私の“稀勢の里ロス”は募るばかり」というエッセーを書いてらっしゃるんです。内館さんはお相撲さんの礼儀とかに厳しくて、特に横綱は強いだけじゃなく、器とか品格を大事にされる方なので、親方の引退をとても残念に思ったんじゃないでしょうか。
荒磯:横綱審議委員もされた方ですから、そういうところは厳しく見てらっしゃると思いますね。
林:横綱が使うのはどうかと思う手を、親方は絶対に使わなかったんでしょう? 大関のころから「こういう手は使わないようにしよう」という自覚があったんですか。
荒磯:そういうものは僕の中ではなかったですけど、勝つための相撲を追求していくと、結果そういう手を使わざるを得ないのかなと思いますね。僕は、はたいたり、立ち合い変わったりとかはあまりしなかったですし、張り差しも頻繁にやることはなかったので、そういう取り口も評価されて横綱に昇進することができたのかなと思います。
林:相撲の評論をする方とか、相撲ジャーナリストとか、いわゆる相撲のプロの方が何人かで「平成の大横綱」を選んだら、親方は2位だったそうですね。「若貴ブーム」の立役者の貴乃花さんが1位で。
荒磯:横綱に昇進してからなかなか勝つことができなかったのに、横綱になる前の相撲を評価していただいたことがうれしいです。でもやっぱり、もっともっと横綱で相撲をとりたかったというのが正直なところです。
林:そうでしょうね。やっと横綱になったとたんに大ケガをして、あのとき日本中が「ガンバレ!」って祈るような気持ちだったんじゃないですかね。