派手な衣装や、奇抜なスタイルまで、何でもすっきり着こなしました。文学の華がらんまんと開ききったようにあなた自身の女の魅力も、開ききりました。
おっちゃんは病気になって車椅子になっても、いっそう聖子さんにべったりくっつき、座談会の席までついてきましたね。その上、話の中に御自分の意見も遠慮なく入れるのです。
当然、誌面ではおっちゃんの意見は削除されます。それを見た聖子さんは、
「おっちゃんのええ意見なんで消すのよ!」
と本気で怒りましたね。おっちゃんは会うたびに、
「聖子は天才でっせ。何世紀に一人という天才でっせ!」
と繰り返していました。そばにいる最後の男から、四六時中、天才呼ばわりされる女は、何が何でも天才にならざるを得ません。
聖子さん、おっちゃんは、あなたにとって、手や足や目よりも大事ななくてはならない存在になりましたね。そこまで男に愛された女がどこまで美しくなるか、あなたの晩年の輝きがそれをもの語っています。
あなたが文化勲章を受章した時、皇后さま始め妃殿下たちがみなさん集まってきて、あなたの豪華で可愛らしい服に手を添えて、珍しがったと話してくれましたね。どんなに売れても、一行も手を抜かなかった聖子さんの作品は、年と共に輝きました。
あなたの古典の知識や造詣の深さはお見事でした。古典をあなたほど深く読み込んでいる友人を、私は知りません。
聖子さん、私も九十七になって、さすがにめっきり弱りました。もうしんどいです。早くそちらに逝って、あなたやおっちゃんに逢いたいです。私が逝くと、あなたとおっちゃんが先頭に立ち、カモカ連を引き連れて、阿波踊りで迎えてくれることでしょう。おっちゃんがニコニコしながら寄って来て手打ちしてくれる声が聞こえます。
「よう、来たな。天才はすべからく遅れてくるもんや」
最上のお世辞のつもりなんでしょう。
聖子さん! おっちゃん! ほんまに早よう、会いたいよう!!
九十七歳の死に遅れた寂聴より
※週刊朝日 2019年12月27日号