瀬戸内寂聴さん (c)朝日新聞社
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田辺聖子さん (c)朝日新聞社
田辺聖子さん (c)朝日新聞社

 2019年も残りわずか。今年も多くの人がこの世を去った。別れの言葉には、さまざまな思いが込められている。共に過ごした思い出、伝えられなかった気持ち。今、あの人に語りたいメッセージ。

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田辺聖子さんへ

瀬戸内寂聴(作家、尼僧)
※8月3日 兵庫県伊丹市でのお別れの会で(瀬戸内美八さん代読)

■ほんまに早よう、会いたいよう!!

 聖子さん、あなたが私より先に逝かれるなんて、あんまりひどいと思わない? 私の方がずっとお姉さんですよ。何はともあれ、生きている聖子さんと、この世でめぐりあい、小説を通して知り合い、語り合い、いつの間にかすっかり気を許しあった親友になっていたことは、今ふりかえっても、心の弾んでくる嬉しい嬉しいことでした。これも縁でしょう。

 あなたにはじめてお逢いしたのは、今東光先生の河内のお宅のお庭でした。何でも先生のお誕生日とかで、沢山の人々がお庭いっぱいに集まっていました。私はまだ有髪で着物を着ていました。ほとんど知人のいない私の目に、地味な服を着て、小柄な人が賑やかな人群の中で、ぽつんとそこだけ陽がささないような、陰になっている感じで、立っている姿が映りました。

 思わずその姿に惹かれて近づくと、誰かとても華やかな人が、

「あ、瀬戸内さんよ! こちら田辺聖子さん!」

 と紹介してくれました。もうその時、あなたは「感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)」で芥川賞を受賞した「時の人」だったのです。そうした華やかさはどこにもなく、日陰の花のように淋しい暗い感じのする小柄な人でした。なるべく目立たないようにする癖がついているのか、人の陰になるように自分の位置を選んで立っていました。

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