ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード/マーシャル・ソラール
ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード/マーシャル・ソラール
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フランス・ジャズ界ピアノ翁健在の新作
Live At The Village Vanguard / Martial Solal

 1927年生まれだから、現在81歳。誰もが認めるフランス・ジャズ界の重鎮ピアニストである。これだけの大ベテランになれば、さすがに枯淡の境地に達するのが普通だが、ソラールにそんな常識は当てはまらない。衰えを知らぬパワーとテクニックは現役感満点だ。

 本作は80歳の誕生日を迎えた2ヵ月後に、NYの名門クラブに出演した際のライヴ・アルバム。今世紀に入って、ソラールと“ヴァンガード”には特別な関係が生まれた。2001年9月11日、前代未聞の惨劇に見舞われた時、ヴァンガードは1週間の休業を余儀なくされた。そして再開なった9月21~23日に出演したのがマーシャル・ソラール・トリオだったのである。その模様は『NY-1』(Blue Note)でアルバム化され、ニューヨーカーを魅了したステージが追体験できたことで、ソラールの名声はさらに高まった。

 あれから6年。今回のソラールはソロ・アクトだ。すべての責任を自分自身が負うセッティング。リスクを承知で臨んだ心意気に拍手を送りたい。

 和やかなMCに続いて始まったスタンダード曲#2は、しかしリラクゼーションを提供すると言うよりも、あらゆる角度から楽曲のテーマに独自の光を当てようとするもの。大胆な戦略家のキャラクターを露にしながら、既成概念を壊して古いボトルに新しいワインを注ぐ作業に、プロフェッショナリズムを聴く。ビリー・ホリデイ所縁の#3、最後に楽しい仕掛けを用意した#4、リズムや和音の衝突がハッとする瞬間を生む#8、クリスマス曲を織り込んだことで共通点を浮き彫りにした#9と、有名曲はどれもが新鮮な発見に満ちている。スタンダードやジャズ・ナンバーとの関連を想起させるソラール自作曲#5、6も、出典探しの面白さがあって、マニアを喜ばせそう。こうなったらハンク・ジョーンズに続く記録を伸ばしてほしいと願いたくなる、ピアノ翁健在の新作だ。

【収録曲一覧】
1. Intro 1
2. On Green Dolphin Street
3. Lover Man
4. I Can’t Give You Anything But Love
5. Centre De Gravite
6. Ramage
7. ‘Round Midnight
8. Have You Met Miss Jones
9. The Last Time I Saw Paris
10. Intro 2
11. Corcovado

マーシャル・ソラール:Martial Solal(p) (allmusic.comへリンクします)

2007年10月NY録音