──僕も監督から手紙をいただいたことがあります。きちんとしていました。監督インタビューを原稿にしたときも、返事には赤ペンが入っていて「ええっ? ここまで直すのかよ!」と正直思いました。
何ごとにも一生懸命な人で純粋な人です。
──それで、監督からの手紙はラブレターのような感じだったのでしょうか。
結構長いお手紙で、映画の内容に関することも書かれていました。とにかく過去の作品をまとめてみたらなかなか面白いことになったというのです。吉岡君は子どものときから出ているのでずっと成長が見えるわけじゃないですか。
これらを饅頭(まんじゅう)の餡(あん)のようにして、薄い皮で包み込んだ作品を作りたい、と書かれていましたね。
でも、絶対、現在の話を多く盛り込んだ、「厚皮饅頭」のようなものになると私は思いました。
──たしかに今回の作品は(後藤さん演じる)イズミと満男との淡いラブロマンスでもあります。
編集が大変だったと思います。過去に撮影したシーンで、伝えたいものもたくさんあったでしょうから。
──これまでの49作をすべて上映すると83時間20分になるそうです。
私、自宅に全作のDVDが入ったトランクケースを持っているんです。その中で第42作「ぼくの伯父さん」、第43作「寅次郎の休日」、第44作「寅次郎の告白」、第45作「寅次郎の青春」、第48作「寅次郎紅の花」と5作に出ています。撮影中に大笑いしたときもたくさんあったのですが、(どんなシーンを撮影したのか)正直あまり記憶にないんです。だって必死でしたから。
そのことを(イズミの母を演じた)夏木マリさんに話したら、「私もそうなのよ」。「(寅さんを演じた)渥美清さんと仕事したのに、渥美さんとのシーンとかあんまり覚えていないのよ。必死だったから」と言うのです。
そうかあ……。私だけじゃないのかと。
>>【後藤久美子が一番好きな“寅さん”は? 24年ぶり俳優業復帰で語る】へ続く
(朝日新聞編集委員・小泉信一)
※週刊朝日 2019年12月27日号より抜粋

