“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、日銀の会計処理について異論を唱える。
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JPモルガンに勤務していた頃、「1日で50億円失った男」という番組がNHKで放送された。番組名を見た部下のカワナベ君が、「ついにNHKに主役で出演ですか?」と冗談めかして聞いてきた。米国人トレーダーの話なのだが、私も1日50億円の損をしたことがあったからだ。
30億円ずつ3日連続して損した時は、「もうだめだ」と円形脱毛症になった。損益のブレは、時価会計が強要されていたから起きた。
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金融資産を時価で評価するルールは、トレーダーにとっては胃が痛くなったが、過度なリスクを取らせないシステムでもある。私が入社した1985年には、JPモルガンは簿価会計を採用していた。その後SEC(米国証券取引委員会)が時価会計に改めろと求めてきた。
JPモルガンで最大規模の勝負を許されていた私に、簿価会計こそ適切との反論を書けとの指示が、NY本店から来た。もちろん下手な英語を本店が修正するのだが、私も時価会計で胃が痛くなりたくないから必死で書いた。しかし、私の反論は押しのけられた。米国の金融は時価会計へと変わっていったのだ。
それでも当初は、「満期まで持っているものは簿価会計、売買目的のものは時価会計」が認められていた。その後、90年代半ばまでに完全な時価会計へと変更された。すべてが時価会計となり、簿価会計は頭の中から消え去った。当初、時価会計に大反対だった私も、米国金融業の強さは徹底した時価会計にも起因していると、認識を変えざるを得なかった。
一方、現在の日本では、企業会計基準にのっとり、米国で90年代半ばまでは認められていた、「満期まで保有する債券は簿価会計、途中売却予定の債券は時価会計」の方式だ。参院議員時代に金融庁に質問したところ、2017年9月末で地域銀行保有債券の96・4%が時価評価の対象になっていた。すぐに日銀に転売してさやを抜くために国債を買っているのだから、時価会計適用は妥当だ。