世界で最も著名な現役シャンソン歌手によるジャズ・ボーカル
Charles Aznavour & The Clayton Hamilton Jazz Orchestra
「今月のイチオシ盤」ではこれまでたびたび、ジャズ以外のヴォーカリストによるジャズ/スタンダード・アルバムを取り上げてきた。そんな暇があったら1枚でも多くの“ジャズ・ボーカル盤”を紹介すべき、との意見があるかもしれない。それを承知の上で選盤してきたのは、実力のあるポピュラー・シンガーはジャズに取り組んでも凡百のジャズ・プロパーを凌駕する魅力を放つことがあるのだと、広く伝えたいからだ。これは後者に対する激励メッセージも含んでいるのだが。
さて今回の主役シャルル・アズナヴールは、世界で最も著名な現役シャンソン歌手である。1924年生まれだから現在85歳。本作が突然のジャズ挑戦というわけではない。99年リリース作『ジャズナヴール』がタイトル通りのコンセプトによる制作で、ミシェル・ペトルチアーニ、リシャール・ガリアーノ、エディ・ルイスといったトップ・ジャズメンが参加した充実の内容だった。新作はそれから10年を経て、超ヴェテラン・シンガーが再び異ジャンルに挑んだもの。そこでアズナヴールがオファーしたのは、米国を代表するビッグ・バンドのクレイトン=ハミルトンだ。フレンチ・ポップスの大御所を大編成ジャズ・バンドがバックアップする構図は、ジャンル性や年齢を踏まえるとすこぶる魅力的なセッティングに映る。
フランス語を主体とした歌唱がエキゾチックな味わいと、どこかノスタルジック雰囲気を醸し出す。それこそがアズナヴールと制作サイドの狙いだったのだろう。さらに本作の“本気度”を物語るのが他の参加者。『ジャズナヴール』でピアニストとして助演したジャッキー・テラソンが、事前プロダクションの編曲家としても貢献し、フランスとアメリカの共同作業をスムーズにしたことが想像に難くない。またラッシェル・フェレルとダイアン・リーヴスの2大女性ヴォーカリストが、英語と仏語でデュエットを演じているも華やか。マイルス・デイヴィス&ギル・エヴァンスの名作から援用したようなホーン・アレンジに、ジャズ・マニア心がそそられるのもいい。このタイミングで制作されたことを祝いたいシャンソン翁の新作だ。
【収録曲一覧】
1. Viens Fais-Moi Rever
2. Fier De Nous
3. Comme Ils Disent 4. Des Amis Des Deux Cotes
5. A Ma Fille
6. Le Jazz Est Revenu 7. I’ve Discovered That I Love You
8. Il Faut Savoir
9. The Jam
10. Je N’oublierai Jamais
11. La Boheme
12. De Moins En Moins
13. Voila Que Ca Recommence
14. The Times We’ve Known
シャルル・アズナヴール:Charles Aznavour(vo) (allmusic.comへリンクします)
ジョン・クレイトン:John Clayton(b)
ジェフ・ハミルトン:Jeff Hamilton(ds)
ジャッキー・テラソン:Jacky Terrasson(p,arr)
ラッシェル・フェレル:Rachelle Ferrell(vo)
ダイアン・リーヴス:Dianne Reeves(vo)
2009年作品、NY、LA録音