そのためには、うつっぽさを我慢してそのままにしておかないことだと思います。時にうつっぽくても、自分で回復できるなら、大丈夫です。でも自分で回復できないと感じたら、そのままにしておかずに早めに助けを求めることが大事です。そういう状態になっている人がいたら、そのことに周りが気づいてあげることも重要になります。

 私はうつ病の専門家ではないのですが、多くのがん患者さんと付き合っていますから、うつっぽいという訴えはよく聞きます。自分ががんだと知ることでうつ状態になるのは、当然のことでしょう。

 患者さんは全国に散在していて、2週間ごとに通院というわけにはいきません。そこで体調の変化を手紙で知らせてもらっています。皆さん、少しも病に負けていません。がんと闘う健気な姿が伝わってきて、頭が下がる思いです。そのなかで、時に不安、焦燥、悲哀などの感情に押しつぶされそうな姿が浮かび上がることがあります。そのときには薬を処方して、その状態を脱する手助けをします。

 人間の本性は悲しみです。明るそうな患者さんは意外にもろいものです。自分の悲しみを踏まえた患者さんが力強くがんと闘えます。その悲しみに共感しサポートするのが、私たち医療者の役割です。いつでも私たちに助けを求めてもらいたいと思っています。

週刊朝日  2019年10月25日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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