「私が入れましょう!」と手を挙げてくれたのは工務店の社長。「私が建てたんだから入らない訳がないっ!」。凄い自信。若い衆を4人連れてきて、太いロープで冷蔵庫をグルグル巻きに。「吊るします!」。クレーンなしで!? 「要りませんよ!」。2階の窓を外して、屈強な男たちがグイグイと引き上げます。「そこを下げろ、斜めにしろ、ちょっと上げろ、引け引け、押せ押せ、よーし!」。あ、入った。その代わり、窓わくがベコベコになったけど……。「板金屋さんに直させます!」。すぐに手配の電話をする社長。窓わくも直り、奇跡的に冷蔵庫がスペースに収まりました。職人、スゴイ。

 冷蔵庫に電源を入れ作動し始めたそのとき、家内が一言「これ、右びらきだ……」。あれほど左びらきにしろって言ったのに!! Tめ。いや、Tなのか? いや、この際Tのせいでいい!! すると家内が言いました。「これは神様が『冷蔵庫の扉を無闇にバタバタ開けると電気の無駄だよ』って言ってるのよ。だからわざと不便なほうに扉を付けてくれたの。そう思えば腹は立たない!」。そうか、奇跡が起きたのか。神様のいたずらなのか。節電になるならまあいいか。安らかな顔の家内。大丈夫かな。ちょっと不安。

 でもさすが新型の冷蔵庫。手をセンサーにかざすと扉が自動で開くのです。「あ、製氷室は扉の真下かー」。私が頭を下げるとセンサーが稼働し、扉が私の頭を「バイーン!」と直撃。氷を取るたび毎回冷蔵庫にどつかれます。ふざけんなよ、T!

週刊朝日  2019年10月25日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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