楽隊の音楽と手作業による効果音が、舞台に流れるいろいろな人生の句読点となっていて、それはラジオのようだとも感じた。

 復員兵、権助と少女、吉田の濡れ場にはドキドキした。その後死んでしまう藤間演じる吉田の、妙になよなよした腰つきが印象深く、ラストシーンにある花火と、腹に焼夷弾を抱えて東京上空に飛来した米軍爆撃機のエンジン音のサウンドコラージュに、それこそ吉祥寺シアターそばで生まれ育った僕の母が、東京大空襲の夜は朝焼けのように東の空が明るくなっていたと教えてくれたことを思い出した。

 開演前は、圭史をはじめ劇団員全員が観客に席案内をしていた。

 聞けば、稽古中は担当制で炊事をしたり、本番中もみんなで舞台衣装の洗濯をしたりしていたそうだ。

 登場した役者の多くはラジオの常連でもある。強い個性が荒縄で束ねられたような大家族、阿佐ヶ谷スパイダースが、東京というこれもまた大きな家族の行く末を描く「桜姫~燃焦旋律隊殺於焼跡」

 雑味さえも凄みに変え、戦後の怒涛を演劇に身体化した長塚圭史は、そこかしこにやるせなさを示しながら、それでも生きる意味を僕にしっかりと示してくれた。

週刊朝日  2019年10月25日号

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