そして、Sさんは<配偶者の代理人弁護士を通じ、市に対して民法第1031条に基づく遺留分減殺請求の意思表示>と野崎氏の相続遺産の遺贈を受ける意向を示したという。報告書には興味深い記述があった。Sさんの弁護士から、野崎氏が保有していた現金は昨年11月で約300万円と報告されていたが、今年7月には約510万円と金額が修正されていたという。

 また、報告書には、法定相続人である野崎氏の親族とその弁護士が田辺市役所を訪れ、<(遺言書が野崎氏の)意図しない形で作成されたものと信じ、遺言無効確認訴訟の提起をほのめかす>とも記されていた。

「今後、法廷闘争になる可能性は想定している」(田辺市関係者)

 野崎氏の直筆の遺言書には全財産を田辺市にとある。しかし、田辺市とSさん、そして野崎氏の親族で分け合うことになるのかもしれない。一方、野崎氏の不審死については今も謎のままだ。報告書の冒頭で次のように書いてあった。

<(野崎氏の)検死の結果、同人の体内から大量の覚醒剤が検出されたことから、和歌山県警は、自殺、他殺の両面から捜査を行っている最中である>

 最近、和歌山県警から事情を聴かれたという野崎氏の知人はこう言う。

「野崎氏が覚醒剤なんて飲むことはない。警察には自宅にあった現金のことなどいろいろと聞かれましたが、すぐに解決となりそうな雰囲気はなかった」

 事実は小説より奇なり……。(今西憲之)

週刊朝日  2019年10月4日号

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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