2020年東京五輪で活躍が期待される選手を紹介する「2020の肖像」。第1回は開会式翌日から始まる競泳、男子個人メドレーの瀬戸大也(25)。16年リオデジャネイロ五輪で表彰台に上ったものの、頂点は遠かった。あれから3年。世界王者に返り咲き、2度目の五輪切符をもぎとった。「後悔はしたくない」。苦い経験の数々が、彼を変えた。朝日新聞社スポーツ部の清水寿之氏が、その成長の軌跡を綴る。
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日本競泳界のエースであることを、結果で示した。
2019年7月に韓国・光州で行われた世界選手権で、200メートル、400メートルの個人メドレー2冠を達成した。世界選手権で手にした金メダルの総数は、13、15年大会で連覇した400メートル個人メドレーと合わせて四つに。通算3つの金メダルを取った男子平泳ぎの北島康介を抜き、日本選手の歴代最多に躍り出た。
今大会で表彰台の中央に立った日本選手は、瀬戸1人だけ。200メートルバタフライの銀を含む3つのメダルは、日本代表が獲得した総メダル(6個)の半分を占める。
「あそこまでは100点の大会。最後に甘さがあって80点の大会になってしまった」
そう苦笑いしながら振り返るレースにこそ、瀬戸の確かな成長がつまっていた。
大会の最終日にあった400メートル個人メドレー決勝。3泳法目の平泳ぎを終えた時点で2番手を3秒以上引き離していたが、最後の自由形に入って失速する。
「抜け出しているのが分かって、気の緩みがあった。疲れがどっと出る要因になったと思う」
残り15メートル。2位の選手に背後まで迫られた。「来ているのは分かっていた」。息継ぎの時間も惜しんで必死に水をかき、0秒27差で逃げ切った。
「この種目は最低でも金、最高でも金と言ってきた。目標を達成できてよかった」
しみじみと言った。
何があっても、トップの座は譲らない。そんな気迫あふれる姿を見せたのは、久しぶりだった。
17年7月の世界選手権。400メートル個人メドレーでは、日本選手として初めての大会3連覇がかかっていた。しかし、結果は銅メダル。開催地のハンガリーから自宅へ戻ると、大会の2カ月前に結婚したばかりだった妻で元飛び込み選手の優佳さん(24)を前に、後悔を口にした。