TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は本谷有希子さんの舞台と香港デモについて。
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親しくしている俳優の富岡晃一郎が出演するというので、初めて「劇団、本谷有希子」公演を観た。演目『夏の日の本谷有希子 本当の旅』は、SNSでつながる富岡を含めた3人の仲間が夏休みにマレーシア・クアラルンプールを旅する物語である(原宿・VACANT)。
ワークショップで練り上げた登場人物のコンビネーションが美しい舞台だった。ステージ上の役者は留まることなく、ダンスのように流動する。SNSでは情報が絶えず行き来しているが、それを可視化しているようにも感じた。
若者にとってSNSは自分を記録する大切な道具だ。彼らは日常をスマホで撮影し続ける。トラブルさえも編集でなかったことにできる。
他者と違うことを嫌がり、生のぶつかり合いを避ける彼らにとって、「平穏」を記録してくれるスマホは必需品である。
彼らの口調に、「なんか」という表現が頻繁に出てくる。
「“なんか”、違う」「“なんか”、いいかも」「“なんか”、美味しい」
この「なんか」は気分を表している。演出家、本谷有希子はそんな若者の気分を舞台化していた。
スマホに内蔵されているハードディスクは我々の脳を外部化していると霊長類学者で京大総長の山極寿一さんに教えてもらったことがあるが、今は思考さえもそうなのだろう。海外に行っても、グーグルが訪れるべき景観地や美術館を日本語で案内してくれる。我々は「無自覚」にグーグルに従う。
「逃亡犯条例」改正案をきっかけとする香港のデモが混迷を深めていたが、ここへ来て香港長官が改正案の撤回を表明した。当局が制圧に手こずったのはSNSのやりとりでデモが成り立っているからという見方がある。
とにかく捕まえるべき首謀者の顔が見えない。ミュージカル『レ・ミゼラブル』の劇中歌『民衆の歌』を合唱する若者たちだが、その歌詞もSNSで拡散される。