──そしたら、どうしたらええんですかね。掛け軸を売るんは。
──オークションでしょ。たとえば△△美術倶楽部が主催してるような、ちゃんとしたオークションに、会員の美術商を通して掛け軸を出品するんです。そのときは倶楽部の正式な鑑定証が必要ですけど。
──出品するときの値段はどう決めるんですか。
──美術商と相談します。相場の半額くらいからスタートしても、入札があるかどうか、期待はできんでしょうね。
──半額でも売れんのですか。
──もし売れたら、二十パーセントほどの手数料を、オークション主催者と美術商に支払います。
──鑑定料も要るんでしょ。
──もちろんです。○○の軸なら五万円ほどかな。
──ネットオークションはどうなんですか。
──あれは偽物の巣です。たとえ本物を出品しても、偽物の値で落札されます。
──なんかしらん、売る気がなくなってきましたわ。
──それくらいめんどいんです。“家宝”の美術品を換金するのは。
それからしばらくして、マスターのスナックへ行った。掛け軸の写真を見たが、想像していた以上にひどいものだった。
※週刊朝日 2019年9月20日号