年金財政の厳しい状況が明らかとなった財政検証で、老後のマネープランの参考になりそうなのが厚労省が関連資料として出した「生年度別に見た年金受給後の年金額の見通し」だ。
5年刻みの生年度別に、その後の年金額を90歳まで示してある。イメージしやすいように将来の金額そのものではなく、今の物価水準に修正。現役世代の手取り収入に対する比率「所得代替率」もある。
初めて見る人にとっては衝撃的だろう。夫が会社員で妻が専業主婦のモデル世帯における、「標準的な年金額」(月額)の見通しだ。
例えば、今年度、65歳となる1954年度生の金額。夫婦2人で22万円もらえるが10年後には20.8万円になり、25年後には19.1万円に減る。
「現役男子の平均賃金」では、今の35.7万円が10年後には38.9万円に増え、25年後には45.7万円にまで上がる。現役の収入はどんどんアップしていくため所得代替率は低くなり、今年度の61.7%が25年後には実に「41.7%」にまで下がる。この傾向は65歳より下の世代でも同じだ。つまり、年金は受給が始まってからもずっと目減りし続けるのだ。
こうなる理由は二つ。
一つは、現在行われている給付抑制策(マクロ経済スライド)だ。これはすべての受給者に適用されるため、年金額はどんどん目減りする。資料では給付抑制策が終わるのは厚生年金が25年度、基礎年金が47年度の想定だ。
もう一つは年金制度の問題。年金額はもらい始めてからは物価に応じて改定される。物価上昇率と賃金上昇率を比べると、通常は賃金上昇率のほうが大きい。従って、年金額とそのときの現役世代の収入は差が開いていく。
ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫主任研究員は、こう警鐘を鳴らす。
「世の中の貧困度合いを測る尺度に、『相対的貧困』があります。1人あたりの所得の中央値の半分がそのラインとされますが、現役世代の収入が増えるとラインも上昇します。今のままでは、年金受給者の間で相対的貧困に陥る確率が高まってしまいます」
将来的に貧困層に転落する年金受給者が続出しかねない、というのだ。(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2019年9月13日号より抜粋