ミラー/チャールス・ロイド
ミラー/チャールス・ロイド
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過去作で取り上げた曲を、敢えてスタジオ作で再びカヴァーする意図は?
Mirror / Charles Lloyd

 2年半ぶりのリリースとなるチャールス・ロイドの新作だ。前作『ラボ・デ・ヌーベ』は2007年スイスでの実況録音で、メンバーを新世代に刷新した“ニュー・クァルテット”だった。これは同作がお披露目となり、その後ステージ活動を重ねてバンドとしての成熟度を高めてきた中での、同じメンバーによるスタジオ吹き込みである。

 1曲を除く全曲がロイドのオリジナルだった前作とは異なり、今作はヴァラエティ豊かな選曲が特色だ。以前から親近感を示していたトラディショナル・ナンバーとロイドの自作曲が、最多の各4曲。両者には共通点があって、過去作で取り上げたり、アルバム・タイトルにもなっている楽曲の再演を含む。ライヴではなくスタジオ作で敢えて再びカヴァーする意図は、共演者や楽器編成の違いが、今の自分の音楽を表現できるから、なのだろう。

 例えば「川は広い」の邦題がある英国古謡の#9は、99年録音の同名作ではジョン・アバークロンビーのギターをフィーチャーしたバラードだったが、今作ではミディアム・テンポのゴスペル風味。60年代に若者から絶大な支持を得た頃の雰囲気を想起させるのがユニークだ。

 #10が2002年録音作『リフト・エヴリ・ヴォイス』収録ヴァージョンでは約3分のシンプルな演奏だったのに対して、今作ではロイドが主旋律を吹きつつ他の3人がフリー・モードで展開し、ロイドもそこに加わって激しく燃え上がる、といった具合。

 オープニングを飾る本作中唯一のバラード・スタンダード#1はドラムレス仕様で、サックス&ベースやピアノ&ベース・デュオの場面も盛り込み、他の収録曲とは趣を変えている。近年テナーと持ち替えで吹くことがあるアルト・サックスにも独特な味わいがあって、ロイドの魅力を拡大していることは間違いない。

 本作中、最も異色の選曲と言えるのが、ビーチ・ボーイズ66年の傑作『ペット・サウンズ』収録曲の#5。実は両者には接点があって、ビーチ・ボーイズがリヴァイヴァル的に再注目された時期の76年作『15ビッグ・ワンズ』に、ロイドが参加しているのだ。テーマの演奏を聴けば、ロイドが原曲のエッセンスを消化した上で自分らしく翻案したことが明らかであり、アルバムの統一感を損なわない仕上がりと言える。

 ECM初録音作『フィッシュ・アウト・オブ・ウォーター』のリリースから、今年で20年。ヤン・ガルバレク、ジョン・サーマンと並ぶ同レーベルの代表的サックス奏者と認知されるロイドの、充実ぶりを示す新作である。

【収録曲一覧】
1. I Fall In Love Too Easily
2. Go Down Moses
3. Desolation Sound
4. La Llorona
5. Caroline, No
6. Monk’s Mood
7. Mirror
8. Ruby, My Dear
9. The Water Is Wide 
10. Lift Every Voice And Sing
11. Being And Becoming, Road To Dakshineswar With Sangeeta
12. Tagi

チャールス・ロイド:Charles Lloyd(ts,as,vo)
ジェイソン・モラン:Jason Moran(p)
リューベン・ロジャース:Reuben Rogers(b)
エリック・ハーランド:Eric Harland(ds,vo)

2009年12月カリフォルニア録音

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