野尻哲史(のじり・さとし)/1959年、岐阜県生まれ。2019年5月から、運用・移住・仕事など多面的に退職後のお金との向き合い方を発信するフィンウェル研究所の代表。主な著書に『定年後のお金』(講談社+α新書)、『脱老後難民』(日本経済新聞出版社)など (撮影/写真部・掛 祥葉子)
野尻哲史(のじり・さとし)/1959年、岐阜県生まれ。2019年5月から、運用・移住・仕事など多面的に退職後のお金との向き合い方を発信するフィンウェル研究所の代表。主な著書に『定年後のお金』(講談社+α新書)、『脱老後難民』(日本経済新聞出版社)など (撮影/写真部・掛 祥葉子)
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平均寿命の推移 (週刊朝日2019年8月16日―23日合併号より)
平均寿命の推移 (週刊朝日2019年8月16日―23日合併号より)

 フィンウェル研究所代表の野尻哲史さんが、「定年後の生活」について綴る「夫婦95歳までのお金との向き合い方」。今回は「平均で考えないで!」。

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 最近は流行り言葉のようになった「人生100年時代」ですが、確かに平均寿命は急速に延びています。終戦直後の昭和25~27年では、男性が60歳、女性が63歳くらいでした。今や男性は81歳、女性は87歳ですから、大幅に延びており、100歳への道をたどっていることは間違いないのかもしれません。

 ただもう少し、この余命を私たちの近いところで考えてみましょう。平成28年の簡易生命表によると、現在60歳の方の平均余命は男性で23.67年、女性で28.91年ですから、男性で84歳くらいまで、女性で89歳くらいまで平均的に生きるということになります。こちらのほうが、よりわれわれの実感に近いということになります。

 ところで平均寿命と平均余命の違いをご存知でしょうか。平均寿命はその年に生まれた子どもが平均的に生きる年数で、平均余命はある年齢の人が平均的に生きる年数のことです。平均寿命は新生児の平均余命ということになります。

 ではわれわれの退職後の人生は男性なら84歳、女性なら89歳を想定しておけばいいでしょうか? それはちょっと危険な賭けに出るようなものです。平均余命というのは、ちょっと乱暴な言い方をすれば、60歳100人のうちの半分の方が亡くなる年齢という意味なのです。言い換えると、半分の方がまだ生きている年齢でもあるわけで、これを前提に退職後の生活を設計するのはかなり危険な賭けをしているように思えます。

 例えば、月5万円ずつ資産から取り崩して生活費に充てるという生活を、65歳から85歳まで続けると想定した場合には、金融資産は年間60万円、20年間で1200万円が必要という計算になります。しかしこれが、もしあと10年長生きするとすれば、必要な資金総額は1800万円に増えることになります。

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