

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「フェス」。
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『フェス』なんかどうせわからないと思ってるんだろう? 俺だってわかるよ、それくらい。フェスティバルの略だろ? まあだいたい、フェスに参加する人は首からなんかぶら下げているわな。紐のついたカード。このカードは何のためにぶら下げるかといえば……まあハンコを押してもらうためであろうことは想像に難くない。全てのマスにハンコを集めた人は、きっと……もらえる。夏のもらえる物……となると……ノートかお菓子と相場が決まっているさ。あ……ラジオ体操じゃね? そう『フェス』はラジオ体操のようなモノ。いや、ラジオ体操が『フェス』なのだ。
そういえば私は「昨今のラジオ体操事情」に言いたいことがある。最近は夏休みの間、ラジオ体操を毎日行わない地域が多いようだ。うちの近所は7月の最終週だけ。しかもわが町内のラジオ体操は毎日ヤクルトが1本もらえる。ヤクルトをもらいに行ってるようなもんだ。私が子供のころはほぼ40日間、毎朝ラジオ体操があり、何がなんでも全てのマスにハンコを押してもらっていた。家族旅行中でも「この辺りでラジオ体操やってる会場はないですか?」と民宿のおじさんに聞いて、縁もゆかりもない小学校にもぐり込んで一人で体操。よそ者がハンコの列に並ぶのはかなり勇気が要る。「見慣れないな。なんだ、チミは?」。ハンコを押す係の人に“変なおじさん”を問い質すがごとく不審がられたので「旅行で来たんです」と言うと、おじさんは「えらいねえ、チミは~」とハンコを押してくれた。そのおかげで皆勤賞のノートとお菓子がもらえたのだ。昔のラジオ体操にはそれくらいの魔力があった。地域の方々の協力あってこそのラジオ体操、皆さんのご苦労はわかっているが、現状はちょっとさびしい……。
なんの話? そうそう『フェス』だ。担当K氏に「フェス的な落語会はないですか?」と聞かれたが、毎年出演している新潟の『虹色寄席』という会がどうやらフェスっぽい。「落語フェス!!」とチラシに書いてあったし。そういえばお客さんはみな首からなんかぶら下げていたな。