ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回のテーマは「セールス電話撃退法はないか」。
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月刊誌の締切り日、朝の五時まで原稿を書いたが、終わらなかった。締切りのタイムリミットは午後三時ごろだから、午前十一時に起きるべく目覚まし時計をセットして布団に入った。そのようすを見ていたオカメインコのマキがとことこ歩いてきて、横になったわたしの頭にとまる。クチュクチュと小さい声で鳴くのは眠いときだ。「マキくん、ネンネしよ」枕もとのスタンドを消した。
目覚めたのは九時半だった。電話が鳴っている。午前中にかかってくる電話はほぼ例外なくセールスだから、絶対にとらない。コール音は七、八回も鳴って、ようやくやんだ。わたしは十一時まで眠ろうと眼をつむったが、眠れない。くそっ、起こされた──。
マキがわたしのまぶたと唇をつついた。「こら起きんかい。腹へったやんけ」という合図だ。
台所に降りてマキに餌をやり、バナナを食った。コーヒーを淹れて仕事場にもどり、電話の着信記録を見ると、やはりフリーダイヤル“0120”からはじまるセールス電話だった。なんとか、これを撃退する方法はないのか──。
そこで思い出した。NTTに“迷惑電話おことわりサービス”とかいうのがあることを。
わたしはNTTに電話した(かかってくる電話は嫌いだが、かける電話はまったく気にならない)。
──ちょっと教えて欲しいんですけど、午前中の電話を拒否したいんです。どうしたらよろしいかね。
──お客さまの電話機にナンバーディスプレイは。
──あります。非通知拒否契約もしてます。
──午後の電話は大丈夫なんですか。
──事情があって、午前中は寝てますねん。午後はOKやけど、夜は九時までにしてほしいんです。
──申しわけありません。当社には時間帯によって着信を拒否するようなサービスはございません。
──ほな、ほかの社やったらあるんですか。